老いを忘れた母

上遠野日和が最初の人工心臓を入れたのは、娘が六歳のときだった。次に腎臓、骨、皮膚。故障するたび若い部品へ替え、外見は二十九歳で止まった。

「この子が大人になるまでは死ねない」

その願いは叶った。娘は大学を出て、結婚し、子どもを産んだ。日和は入学式でも結婚式でも妹に間違われた。写真の中で、娘だけが年を取った。娘が四十歳のころ、授業参観には来ないでほしいと言われた。友人から「若いお母さんで羨ましい」と言われるたび、娘は自分の皺を隠すようになった。日和は傷ついたが、その傷さえ外装には表れなかった。

七十歳になった娘は、母と並んで歩くのを嫌がった。

「お母さんを見ると、自分が失敗作みたいに思える」

「あなたも替えればいい」

日和が言うと、娘は怒った。

「私は、お母さんに生きてほしかった。でも、私と同じ時間を生きてほしかった」

まもなく娘は病気になった。医療AIは全身機械化を勧めたが、彼女は断った。日和は説得し、泣き、契約書まで用意した。

「あなたを置いていけない」

「置いていかれるのは、ずっと私だったよ」

娘は八十二歳で亡くなった。葬儀の日、参列者は若い喪主を遠巻きに見た。日和の涙腺は人工で、涙は適量しか流れなかった。

帰宅後、彼女は娘の古い服を一枚ずつ畳んだ。どれも自分より先に古びていた。永遠に近い身体は、遺品を捨てる理由まで奪うのだと知った。彼女は外装技師へ頼み、顔に皺を刻んでもらった。白髪も、曲がった背も、すべて演出にすぎない。鏡の中の老女は、娘と同じ時間を取り戻してはくれなかった。

それでも日和は、曾孫の保育園へその姿で迎えに行った。

「ひいおばあちゃん、どうして急におばあちゃんになったの?」

日和は手をつないだ。小さな歩幅に合わせるため、脚の速度制御を落とした。

「遅く歩く練習を始めたの」

永く生きることは、先へ進み続けることだと思っていた。今は、置いてきた人の速さを思い出しながら歩くことだと知っている。

日和は若い身体の中で、初めて老いることを選んだ。