肩から切る写真

人気モデルの護衛を任された鬼無玄は、撮影現場でカメラマンの指示を聞き、即座にモデルの前へ立った。

「次、肩から切ります」

玄は低く尋ねた。

「刃物はどこだ」

カメラマンはレンズをのぞいたまま答えた。

「刃物? いらない。画面の端で切る」

証拠を残さない手口らしい。

「本人の同意は?」

「いつものことです。膝下は切らず、頭は少し切ってもいい」

「順番は?」

「まず腰で切って、次に胸。最後は指先が切れないよう注意します」

玄は手袋の中で拳を握った。部位ごとに進める計画らしい。

モデルが平然とうなずく。

玄は耳を疑った。

「頭まで?」

「表紙は寄りたいんで。首も詰めます」

撮影スタッフがレフ板を近づける。玄はそれを盾だと思い、モデルを背後へ隠した。

「撮影を中止しろ。人体を切る話ばかりしている」

編集者が困った顔で説明した。

「全身を写真に入れるか、胸から上だけ写すか、その構図の話です」

玄はまだ疑った。

「なら、さっき『腕が切れている』と叫んだのは」

「写真の端で腕が見えなくなっていたから、撮り直しただけです」

モデルは両腕を上げ、十本の指を数えて見せた。

「全身、在庫あります」

「では『首を詰める』は」

「服の襟元を整えることです」

「『足を飛ばす』は」

「画面に入れないこと」

「『目を殺す』は」

「レンズの反射を消すこと」

説明するほど凶悪事件の供述に聞こえた。

玄は警察へ電話しかけたが、モデル本人が笑った。

「玄さん、写真を見て。ほら、肩のところで画面が終わってるでしょう。それを肩で切るって言うの」

モニターには、無傷のモデルの上半身が美しく収まっていた。

玄はようやく腕を下ろした。

「最初から撮ると言え。切るのは写真だけだと」

カメラマンはため息をついた。

「最初から撮ってます」

撮影再開後、カメラマンが言った。

「護衛さん、少しフレームから外れて。あなたの顔、半分切れてます」

玄は反射的に頬を押さえた。

モデルが笑いすぎて、次の十枚はすべて手ぶれになった。