虫の合唱が告げた敵

「虫の群れから一文だけ聞き取れる? 一匹ずつ黙らせてから来い」

魔獣研究院の試験で、ラスティアは無能と判定された。

【能力:《群声一句》――同種の小動物が同時に発する声から、群れ全体が伝える一文だけを理解する】

個体とは話せず、一日に一群だけ。彼女は王都灯台の蛾除け係へ回された。

夏至の夜、百万匹の硝子蛾が王都へ集まった。

羽根は刃のように光り、街灯も窓も覆い尽くす。兵は作物を食う魔虫の襲来と考え、炎術で焼こうとした。だが蛾は炎へ向かってさらに集まり、落ちた羽根が屋根を切り裂いた。

獣公ドバルグは中央灯台を最大光量にし、蛾を一か所へ集めて焼き払うよう命じる。

ラスティアは灯台の足元で、蛾の羽音が一つの拍子を繰り返していると気づいた。食欲に狂う群れなら音は乱れる。彼らは何かを知らせるため、わざと同じ場所へ集まっていた。

《群声一句》

百万の擦過音が、一文になる。

――下の光を消せ、卵が目覚める。

中央灯台の地下には、古代魔炉がある。灯りは上へ向けているはずだが、炉の余光が地盤の亀裂から地下へ漏れていた。そこには、王都より古い地蟲の卵が眠っている。硝子蛾は光を食べに来たのではない。羽根で灯りを遮り、孵化を止めようとしていた。

「灯台を消せば敵軍の夜襲を招く!」

ドバルグが反対する。

ラスティアは外周の小灯を残し、中央魔炉だけを止めた。

地面の下から響いていた鼓動が弱まり、やがて消える。硝子蛾は一斉に羽根を閉じた。百万の身体が透明な屋根となり、中央塔の代わりに月光を反射して王都の輪郭を照らす。

敵軍は暗闇になったと思って進軍したが、外周灯と蛾の反射で姿を丸見えにされ、獣公の騎兵に包囲された。

夜明け、硝子蛾は一匹も作物を食べず、森へ帰った。

試験官が「虫の一文を信じただけ」と言う。

ドバルグは中央灯台の点火杖を折り、その男へ渡した。

「我らは百万匹の警告を騒音と呼んだ」

獣公はラスティアへ魔獣院の緑印を授けた。

「次に群れが来たら、討伐数を数える前に一文を聞け」