西日を売らない窓
住宅営業の若槻奈央は、建築予定地で施主から大きな南向き窓を求められた。
「展示場みたいな吹き抜けにしたい。坪単価はこれ以上上げないで」
設計担当は、標準仕様なら可能だと図面を広げた。契約日は今日。変更を増やせば競合へ戻られる。
奈央は午前の打ち合わせを午後三時へ延ばし、土地に白いテープで窓の位置を描いた。南側には低い倉庫しかない。図面上は日当たりがよい。
三時半、倉庫の屋根が強く光った。銀色の金属屋根が西日を反射し、窓予定地へまともに差し込む。さらに川沿いから風が抜け、吹き抜けの高さで音を立てた。
「夏はカーテンを閉めればいい」
施主は言った。
奈央は日射取得の試算をその場でやり直した。大窓をそのまま付ければ、冷房能力を一段上げる必要があり、標準予算を超える。安く見える窓が、毎月の電気代と大型空調を連れてくる。
奈央は倉庫の所有者にも確認し、来年屋根をさらに反射率の高い材質へ替える予定だと知った。今見えている光より、完成後に強くなる光を考えなければならない。契約前の土地確認は、敷地の中だけ見ても終わらない。施主も屋根を見上げ、初めて目を細めた。
彼女は窓を小さくするのではなく、位置を二つに分けた。低い窓は庭へ、高い窓は東寄りへ向ける。吹き抜けを半分だけ天井で区切れば、光は残り、耐震等級を保つための補強材も減らせる。浮いた費用で外側に庇を付ける。
設計担当は「見栄えが弱い」と渋った。奈央は施主を近くの完成住宅へ連れて行き、同じ時刻に大窓の前へ立ってもらった。住人は昼間から遮光カーテンを閉めていた。
「売るときの写真には、カーテンを開けます」
奈央は言った。
「暮らす時間の方が長いです」
施主は図面の大窓に二本の線を引いた。契約額はほとんど変わらず、空調は標準のままになった。
夕方、署名を終えた奈央の携帯へ、別の土地の写真が届いた。北向きで暗いから値引きしてほしいという相談だった。
彼女は方角だけで返事をせず、翌朝の日の出時刻を調べた。