観葉植物専用
十三階へ行けるのは、観葉植物だけである。
人間が付き添う場合は、胸に配送票を貼り、荷物としてエレベーターへ載る。十二階を過ぎたら息を止め、十三階の扉が閉まるまで吸ってはいけない。植物が新しい名札をつけて戻っても、元の名前へ直すことは禁止されている。
桃生は総務で、社内の鉢植えを管理していた。
窓際のゴムの木は、退職した上司が二十年育てたものだった。上司の机が撤去されたあとも、幹には古い社員証が麻紐で結ばれていた。葉が一枚ずつ黒くなり、園芸業者から十三階での植え替えを勧められた。
桃生は鉢を台車へ載せ、自分の胸に《付属品・一名》と貼った。
扉が開くまで息を止める。十三階には人のいないオフィスが広がり、机ごとに植物だけが働いていた。パソコンのキーを根が押し、電話の受話器を蔓が持ち上げている。誰も驚かない。配送係のサボテンが、棘で受領印を押した。
ゴムの木は奥の机へ運ばれた。
桃生は息を止めたまま待った。胸が痛み、視界が暗くなる。規則では、人間が先にエレベーターへ戻ってはいけない。植物の名札が交換されるまで付き添う。
やがてゴムの木が戻ってきた。黒かった葉は艶を取り戻し、幹の古い社員証が新しい札へ変わっている。
《桃生匠 所属・十三階総務》
息を吐きそうになった。桃生は口を押さえ、台車を押してエレベーターへ入った。
扉が閉まり、十四階の表示が点いたところで息を吸う。肺へ入ってきた空気は、土とコピー機の熱い匂いがした。
翌朝、桃生の机は窓際へ移されていた。人事システム上の所属は総務のままだが、内線表から名前が消えている。代わりにゴムの木の鉢へ、桃生宛ての稟議書が次々と届いた。
彼は上司の古い社員証を外そうとした。麻紐は幹へ食い込み、根のように伸びている。その下には、上司の退職日ではなく、桃生の入社日が刻まれていた。
鉢底から白い根が一本這い出し、桃生の首に下げた社員証の穴を通った。
根は床へ戻らず、写真の中の彼の口へ潜り込み、社員証の裏側で小さな新芽を十三枚開いた。