豆莢が弾ける音
兎人のハルネは、冒険者組合で「戦えない荷物持ち」と呼ばれていた。
彼女の固有技能《芽を急がせる》は、剣にも盾にも効かない。
仲間たちは役立たずを辺境へ置き去りにし、帰りの馬車代さえ残さなかった。
ハルネは置き去りにされた土地へ豆を一列蒔いた。
技能を使ったのは最初の一度だけ。あとは水を運び、支柱を立て、虫を指で除いた。荷物持ちで鍛えた肩は、水桶を二つ運ぶのに役立った。誰も評価しなかった力が、葉を一枚ずつ増やしていく。
そうして初夏の朝、蔓にふっくらした莢が並んだ。
最初の一本へ手を伸ばす。
指で持ち上げると、莢の中で豆が三粒、ころころ動いた。
ぷつりと摘み、籠へ入れる。
耳を澄ませながら一列を進む。葉の擦れる音、朝の蜂の羽音、自分の足音。誰からも遅いと怒鳴られない収穫は、それだけで胸が軽かった。
一番小さな莢は枝に残す。明日もう少し太るだろう。冒険では遅れた者を置いていくのが当然だったが、畑は待つことを失敗と呼ばなかった。
籠が半分になったころ、傷だらけの伝令鳥が落ちてきた。
脚には元仲間の筆跡。
『食料切れ。技能で豆を育てて持ってこい。今なら復帰を認める』
ハルネは手紙を開いたまま、しばらく眺めた。
以前なら「認める」の一言に飛びついただろう。
今は籠の重みが、誰に認められたかより確かだった。
小屋へ戻り、莢を裂く。
緑の豆が指先へ転がった。塩湯へ落とすと、鍋の中で鮮やかな色になる。
別の莢は皮ごと鉄板へ置いた。熱で膨らみ、やがて、ぱん、と一つ弾ける。
香ばしい青い匂いが広がった。
山羊乳と豆を潰し、厚いパンへ塗る。
塩だけなのに、噛むと若い甘さが舌いっぱいに広がった。
伝令鳥にも茹でた豆を一粒置くと、器用についばんだ。
ハルネは返事を書く。
『復帰しません。豆も運びません。種なら、代金前払いで売ります』
紙を鳥の脚へ結び、空へ放つ。
それから残った莢を鉄板へ並べた。
ぱん、ぱん、と次々に弾ける音がする。
かつて仲間の剣戟を聞いて震えていた耳が、その小さな破裂音には楽しそうに揺れた。
今夜の敵は空腹だけだ。
ハルネは焼きたての莢を割り、最初の収穫にかぶりついた。