赤いスカーフの姉妹
二人が店に来たのは、閉店の一時間前だった。
円香さんと蘭さん。母親から逃げており、できるだけ似た格好にしたいという。髪を同じ長さに切り、同じ紺色のコートを買えば、遠目には見分けにくくなる。追跡されたとき、どちらがどこへ行ったか分からなくするためらしい。
私は映画みたいだと思ったが、二人は笑わなかった。蘭さんは『同じにするなら、傷も隠して』と言い、円香さんの火傷へファンデーションを厚く塗った。本人確認に使える特徴を消すためだという。
姉の円香さんは左手首に古い火傷があり、妹の蘭さんは赤いスカーフを何度も結び直していた。母親は、そのスカーフを目印に妹を探しているという。ところが蘭さんの買い物袋から、値札の付いた同じ品がもう一本のぞいていた。私は予備だと思い、何も尋ねなかった。
「なら、捨てたほうがいいのでは」
私が言うと、蘭さんは首を振った。
「お母さんにもらった最後の物だから」
その言葉に、円香さんだけが顔をしかめた。
試着室から出た蘭さんは、なぜかスカーフを姉の首へ巻いた。「お姉ちゃんのほうが似合う」と笑い、交換したコートのポケットへ自分の身分証を滑り込ませた。円香さんが気づく前に、店の外で女がこちらを見ていた。
蘭さんは鏡越しにその女を見た。けれど私には何も言わず、姉の背中を入口へ押した。
自動ドアが開くと、女は赤いスカーフへ飛びついた。
「蘭!」
円香さんは腕をつかまれ、路上へ引きずられた。私は警察を呼び、蘭さんはレジの陰で震えていた。円香さんは転倒して額を切ったが、母親は警察に取り押さえられた。保護されたあとも、「間違えられたんです」と泣き続けた。
その夜、警察に頼まれて防犯映像を確認した。女が現れる三分前、蘭さんは試着室の隙間から外をのぞいていた。母親を見つけた直後、スカーフを外し、姉の首へ結んでいる。
さらに音声には、円香さんにだけ聞こえる声量でこう残っていた。
「今度は、お姉ちゃんが連れていかれて」
映像の最後、パトカーへ乗る蘭さんの首元には、もう一本、同じ赤いスカーフが巻かれていた。