赤い花は全員に

 夜行列車《北斗環状号》の食堂車で、赤いカーネーションを胸に挿した三人が同じ卓へ座った。

 マフィアの運び屋、鴇田レオは、花を目印に密輸品の買い手を待っていた。

 鉄道警察の指宿嵐士は、同じ目印の容疑者を追っていた。

 泥棒の棗井雛菊は、花をつけた富豪から財布を抜けという依頼を受けていた。

「荷物はお持ちですか」とレオ。

「ええ」と嵐士は手錠入りの鞄を軽くたたく。

「私も道具なら」と雛菊。

 三人は、話が通じていると思った。

「終点で交換する」とレオ。

「到着前に確認します」と嵐士。

「交換の前に抜くのが私の流儀」と雛菊。

「抜く?」

「中身を」

 レオは、雛菊を検品係だと思った。

 嵐士は、犯行予告だと思った。

「対象はどちらです」と雛菊。

「赤い花の男だ」とレオ。

「あなたも赤い花ですが」

「お前もだ」

「全員そうですね」と嵐士。

 三人はしばらく沈黙した。

「合図は赤い花とだけ聞いた」とレオ。

「私もです」と嵐士。

「私も。依頼人、雑すぎない?」と雛菊。

 誰も依頼人の名を言えず、疑いだけが三倍になった。

 レオが銀色のケースを卓上へ置く。

「中には触るな。光へ当てると価値が落ちる」

「違法な品ですか」と嵐士。

「国境を越えればな」

 雛菊はケースより、レオの内ポケットの厚い財布へ目をつけた。

「先に報酬をもらっても?」

「仕事が済んでからだ」

「仕事とは何です」と嵐士。

「お前が一番よく知っているはずだ」

「逮捕ですか」

「誰を?」

「あなたを」

 嵐士が警察手帳を出す。レオがケースを抱え、雛菊は立ち去ろうとした。

「そちらも止まりなさい」

「私は花を見に来ただけ」

「今、彼の財布を持っています」

 雛菊の手には、いつの間にか黒い財布があった。

「技術紹介です」

 そこへ車掌の鷹嘴修がワゴンを押してきた。

「開業百周年の記念花、まだ受け取っていない方はいませんか。今夜は全乗客へ赤いカーネーションをお配りしています」

 食堂車を見渡すと、老夫婦も学生も赤い花を挿していた。

 レオは卓へ額をつけた。

「目印の意味がない」

 嵐士は手錠を二つ出した。

「こちらは、よい目印になりました」