赤い麺の花冠

 花精族レアナは、ナポリタンの赤さに息を呑んだ。

 喫茶店の白い皿へ、太い麺が山のように盛られている。ケチャップで艶を帯び、輪切りのピーマン、玉葱、赤いウインナーが混じっていた。

「これは花の汁で染めたのですか」

「トマトとケチャップです」

「麺を、こんな色に?」

 故郷では、花の色を食べ物へ移すのは儀式のときだけだ。レアナは今年、王庭の春飾りを任された。しかし彼女の育てた花は例年より淡く、長老から「華やかさが足りない」と言われた。以来、色を見るたび採点されている気がしていた。

 フォークで麺を巻く。途中でウインナーが逃げ、皿へ戻った。もう一度巻き、口へ運ぶと、甘酸っぱいケチャップと炒めた玉葱の香りが広がる。麺の端には鉄板で焼けた焦げ目があり、そこだけ少し苦い。

「上品ではありませんね」

「喫茶店の味ですから」

「褒めているのです。口の周りまで赤くなる」

 店員が鏡を向けると、レアナの唇の端にケチャップがついていた。彼女は慌てて拭き、白い袖にも小さな赤い点があるのを見つけた。

「落ちますか」

「今ならたぶん。でも、そのままでも小さな花みたいですよ」

 袖の点は、花弁一枚にも見えた。左右も大きさも揃っていない。それなのに妙に目を引く。

 レアナは粉チーズを振った。白い雪が赤い麺へ落ち、味がまろやかになる。次にタバスコを一滴だけ。舌が熱くなり、淡い色では足りないと思い込んでいた胸まで目を覚ました。

「赤だけで、こんなに表情が変わるのですね」

「緑も白も、焦げ茶も入ってます」

 よく見れば、皿には一色しかないわけではない。ピーマンの緑、玉葱の透明、チーズの白。それぞれが赤の中で消えずに残っている。

 食後、レアナは春飾りの設計図を開いた。濃い花を増やすのではなく、淡い花の間へ葉と白枝を置く案を書き込む。袖の赤い点は、最後まで拭かなかった。

 店を出ると、夕暮れの雲も薄い桃色だった。レアナの髪には炒めたケチャップとバターの香りが残り、淡いものにも腹を満たす色があると、初めて思えた。