転校生係、迷子になる
尾白は、転校生係に選ばれた。
理由は「学校に詳しそうだから」。実際には、入学して半年たっても特別教室の場所をよく間違えていた。
転校生が来た朝、担任は言った。
「尾白、校内を案内してやれ」
「任せてください」
断るタイミングを失った。
一時間目の前、二人で教室を出る。
「ここが職員室。用があるときは前の扉から」
「はい」
「こっちが理科室」
「家庭科室って書いてあるけど」
「裏側が理科室」
「裏側、壁だよ」
転校生は笑わなかった。
次に図書室を目指した。階段を一つ間違え、音楽室へ出た。引き返す途中で美術室に着き、さらに曲がると、さっきの家庭科室へ戻った。
「この学校、円形?」
「たぶん増築のせい」
「尾白さん、迷ってない?」
「迷わせないために、危険な道を教えてる」
苦しい説明だった。
予鈴が鳴った。
尾白は焦って走った。転校生も後ろをついてくる。廊下は走るなという掲示を通り過ぎ、二人で同時に先生へ注意された。
ようやく教室へ戻ったとき、授業は始まっていた。
担任が呆れた顔をする。
「図書室まで何分かかってる」
「学校の全体像を」
「図書室は?」
「見つかりませんでした」
教室が笑った。
転校生も、そこで初めて声を立てて笑った。
昼休み、尾白は謝った。
「ごめん。別の係に頼んだほうがいい」
「もう一回行こう」
「どこへ」
「図書室。今度は私が探す」
二人は校内図を持って出た。
それでも迷った。
体育倉庫の裏へ出て、渡り廊下を二往復し、閉鎖中の階段へ着いた。途中から、どちらも図書室を探すのを忘れた。
知らない窓から中庭を見つけ、誰も使わない水飲み場を見つけた。階段の踊り場には、卒業生が描いた小さな猫がいた。
「この学校、結構面白いね」
転校生が言った。
尾白は胸を張った。
「詳しいから」
「迷ったから見つけたんでしょ」
「それも詳しさ」
放課後、図書室は教室の真下にあるとわかった。
転校生係としては失敗だった。
けれど翌朝、転校生は尾白の机へ来て言った。
「今日は屋上を探そう」
屋上は立入禁止だった。
二人はまた、別の場所へ着いた。