返せない依頼金

冒険者ギルド〈獅子門〉で、返金を求める鐘が鳴り続けた。

火竜討伐が王命で中止され、依頼人三十七名が預け金を取り戻しに来たのだ。受付長は笑顔で金庫を開け、笑顔のまま固まった。

中には銅貨が二袋しかない。

預け金は大広間の改装に使われていた。大理石の床、金縁の掲示板、支部長の肖像画。経理担当カシェルが毎月二割を返金準備金として残していたが、支部長は「眠る金は死んだ金」と言い、前日に彼を追放して箱を空にした。

「来月返す」と説明しても、依頼人は納得しない。討伐がなくなった今、雇った護衛や馬車を解約するため、今日の金が要る。

一人が登録証を返すと、列全体が続いた。冒険者も、報酬を預けるのは危険だと知り、貯金を引き出し始める。夕方には扉が内側から押され、金縁の掲示板が床へ落ちた。

市の衛兵が駆けつけ、残った銅貨を保全するため金庫へ封印を掛けた。返金できない支部は新規依頼の受付も禁止される。豪華になった大広間には、仕事を失った受付係と空の椅子だけが残った。

支部長は肖像画を売ろうとしたが、絵具代にも届かない査定だった。準備金は目立たなかったが、それがなくなった瞬間、建物の価値まで一緒に消えた。

同じ時刻、町外れの新支部では、カシェルが中止になった薬草依頼の預け金を即座に返していた。依頼人は驚き、次の仕事もその場で申し込む。

本部監査官は準備金の封印を確かめて頷いた。

「返せることが、預かる資格だ。この支部を一級へ昇格させる」

返金を受けた依頼人の半数は、そのまま新しい依頼書を提出した。冒険者たちも報酬の預け先を新支部へ移す。豪華な柱はなくても、金が戻ると証明された窓口には、翌朝の開門前から列ができた。

夜、〈獅子門〉の支部長が裏口から現れた。豪華な靴は群衆に踏まれ、片方の金具が外れている。

「戻ってくれ。返金はどうにかする。お前を副支部長にする」

カシェルは新支部の金庫を閉め、二本の鍵を別々の職員へ渡した。

「預け金は戻せても、私の契約は戻りません。追放日に終了しています」