返却台の青い付箋

返却台の本に、青い付箋が挟まっていた。

『七十二ページ、読んで』

図書委員の私は、落とし物だと思って剥がしかけた。けれど、その字には見覚えがあった。

先月から口をきいていない親友の字だった。

七十二ページには、二人の登場人物が仲直りできないまま別れる場面があった。どちらも相手が先に謝ると思い、駅の反対側へ歩いていく。

付箋の裏には何もない。

私は別の青い付箋へ書いた。

『どっちが悪いと思う?』

本を棚へ戻し、翌日見ると、また返却台に置かれていた。

『両方。たぶん私も』

その一行を見て、胸が熱くなった。

けんかの原因は、合唱祭の伴奏だった。親友が選ばれ、私は落ちた。祝いたかったのに、「先生に気に入られてるから」と言ってしまった。彼女は「練習してない人に言われたくない」と返した。

どちらも間違いではなく、だから余計に謝れなかった。

私は付箋へ書いた。

『私も。七十三ページは?』

次の日、本は貸出中になった。借りた人の名前は見られない決まりだが、分かっていた。

一週間、返ってこなかった。

付箋を使うより直接話せばよかった、と毎日思った。教室では席が遠く、目が合うとどちらも逸らした。

返却期限の日、閉館直前に彼女が来た。

本をカウンターへ置き、何も言わず帰ろうとした。

「延滞はないよ」

図書委員らしい言葉しか出なかった。

彼女は立ち止まり、鞄から青い付箋の束を出した。

「七十三ページ、なかった」

本を開くと、七十二ページの次が七十四ページだった。製本ミスで一枚抜けている。

「続き、読めないね」

私が言うと、彼女は笑いそうな、泣きそうな顔をした。

「じゃあ、自分たちで決める?」

「何を」

「駅の反対側へ行った二人が、どうするか」

図書室の机に向かい合い、私たちは抜けた一ページを書いた。

片方が走って戻る。もう片方も同時に戻る。駅の真ん中でぶつかり、最初に出た言葉は謝罪ではなく、「痛い」だった。

書き終えたところで、私たちは同時に笑った。

「伴奏、聴きたい」

私が言った。

「練習、付き合って」

彼女が言った。

謝る言葉は少し遅れて出た。どちらが先だったか覚えていない。

青い付箋は本からすべて剥がした。代わりに、抜けた七十三ページの物語を一枚だけ挟み、司書の先生へ製本不良を報告した。

先生はその紙を読み、「これは修理できないね」と笑った。

合唱祭の日、私は客席で彼女の伴奏を聴いた。譜面の端には、青い付箋が一枚貼られていた。

『ここから続き』