遺跡の扉が映した朝
王立博物院の新展示室で、考古学者カドモス・ベルテは、千年閉ざされていた星王墓の扉を披露した。
「解錠句を発見し、最初に墓室へ入ったのは私です」
助手ネリス・アーヴォは、観客の後ろに立っていた。砂嵐の朝、崩れた碑文をつなぎ、解錠句を読んだのは彼女だ。カドモスは扉が開いた途端に先へ入り、発見標から彼女の名札を引き抜いた。
「助手は荷物番でした」
学士たちは教授の冗談に笑った。
博物院長が言う。
「では発見者として、展示扉へ登録を。解錠句を唱え、銘板へ署名してください」
カドモスはためらわず署名した。
「星は沈まず、名は砂に還らず」
石扉が低く鳴った。
星王墓の扉は、最初に解錠句を唱えた瞬間を《発見の朝》として保存する。正式登録の署名が入ると、その記憶を公開する仕組みだった。カドモスは碑文を読めても、遺跡魔術の意味までは理解していなかった。
展示室の壁一面に、砂嵐の映像が広がる。
倒れた石柱を起こすネリス。欠けた文字へ紙を重ね、煤で形を写すネリス。そして震える声で、初めて解錠句を唱える姿。
扉が開き、朝日が差し込む。
その直後、映像の端からカドモスが走り込んだ。
『よくやった。名札を寄越せ』
『発見記録に必要です』
『教授の名で発表したほうが調査費が出る。おまえのためでもある』
彼はネリスの名札を引き抜き、砂へ踏み込む。さらに、自分の声がはっきり残っていた。
『扉の記憶は、正式登録まで開かない。登録するのは私だ。誰にもばれん』
その正式登録を、今、彼自身が行った。
カドモスは映像を消そうと銘板へ触れたが、署名済みの発見者にしか停止権がない。そして扉は、最初の発見者をすでにネリスと認定していた。
展示扉の銘板からカドモスの名が砂のように崩れた。代わって《第一発見者、ネリス・アーヴォ》の文字が石へ深く刻まれる。千年消えなかった王墓の記憶が、たった一日で消されかけた助手の名を、自ら取り戻した。
博物院長は彼の教授章を外すよう衛兵へ目配せし、院則を読み上げた。
「カドモス・ベルテ。発見記録の窃取および遺跡資料の改竄により、王立博物院から除名する」