錬金棟の封じられた換気口

王立錬金研究棟で、警報鐘が鳴った。

実験室に毒性の黄煙が満ち、研究助手リディア・ネーヴは床へ伏せる。主任研究員オルガン・フェルは廊下から扉を押さえたまま笑った。

「成果を独占した罰だ。助けてほしければ、私を筆頭発明者に書き直せ」

同僚たちは主任を恐れ、目を逸らす。机には、彼に破かれた告発書の切れ端がまだ残っていた。リディアは半年間、薬品を隠され、失敗した実験の責任を負わされてきた。今日は換気口まで塞がれている。

「訂正書を入れてください。署名します」

オルガンは勝ち誇り、扉下の隙間から契約羊皮紙を差し込んだ。そこには『全成果はオルガン主任の指導による』とあり、彼自身の先行署名が赤く輝く。

リディアは署名せず、紙を換気口の検査板へかざした。

板が読み上げる。

『実験室の安全設備を故意に停止し、署名を強要する状況を確認』

「何だ、それは」

「事故発生時、提出された文書と周囲の魔力を監査局へ転送する装置です」

オルガンは扉から手を離し、換気制御盤へ走る。しかし停止操作には彼の主任印が残っていた。しかも理由欄へ、自分で『ネーヴ助手への規律指導』と入力している。

黄煙は床下の緊急吸引口へ流れ始めた。リディアは最初から無害化剤を撒いていたが、オルガンはそれを知らない。彼が本気で危険な煙だと思いながら扉を封じた事実だけが、鮮明に記録された。

「研究上の演習だ! 彼女の判断力を試した」

廊下の拡声石が、その弁明も研究棟全体へ流す。

リディアが契約羊皮紙を裏返すと、過去半年分の成果移転申請が並んでいた。オルガンは部下の名前を消すたび、同じ主任印で承認していたのだ。

監査官たちが階段を上がってくる。先頭の王国錬金監は換気口の封印札を回収し、オルガンの署名と照合した。

オルガンはリディアへ囁く。

「証言を変えろ。次の職場をなくすぞ」

検査板がその声を最後の証拠として刻む。

錬金監は銀の令状を開いた。

「オルガン・フェル。殺人未遂、監禁、研究成果強奪および継続的虐待の容疑で、逮捕を命ずる」