閉会式の一秒前

 閉会式の放送は、午後四時ちょうどに切れる。

 生徒会室の壁には秒まで表示する時計があり、丹羽芙佳は三時五十九分二十秒から、それしか見ていなかった。

「最後の原稿、十七秒」

 隣で宮地颯太がストップウォッチを構える。

「読める」

「噛んだら終わる」

「縁起でもない」

 文化祭実行委員長として、芙佳は二か月、時間に追われ続けた。企画書の締切、備品返却、ステージ転換。最後くらい、一秒も遅れずに終わらせたかった。

 三十秒前。

 放送室の窓から、校庭の後夜祭ステージが見える。紙吹雪を片づける生徒、写真を撮るクラス、まだ終わりたくないように走る一年生。

「丹羽」

「今、話しかけないで」

「終わったら言えない気がする」

「何を」

 二十秒前。

 颯太がストップウォッチを置いた。

「来年も、隣でやりたい」

「実行委員を?」

「それも」

「それ以外は?」

 十五秒前。

 放送開始のランプが点く。

 芙佳は原稿を開いた。颯太は答えない。ガラスに映る彼の口元だけが、何度も言葉を探している。

 十秒前。

 芙佳はマイクへ向かった。

「以上をもちまして、本年度の文化祭を終了いたします。ご来場、ご協力いただいたすべての皆様、本当にありがとうございました」

 十三秒。予定より四秒早い。

 残り四秒。

 芙佳はマイクのスイッチへ手を伸ばしたが、切らなかった。

 三秒。

 颯太が目を見開く。

 二秒。

「宮地颯太くん」

 芙佳は全校放送で名前を呼んだ。

 一秒。

「来年の予約、受け付けました」

 午後四時。

 マイクを切る。

 校庭が一瞬静まり、それから、生徒会室まで届くほどの歓声が上がった。

「全校に言う?」

 颯太が顔を覆う。

「時間がなかったから」

「それ、返事?」

「それも」

「それ以外は?」

 今度は芙佳が答えに詰まった。

 時計は四時〇分十秒。文化祭はもう終わっている。実行委員長の権限も、原稿も、秒読みもない。

 だから芙佳はストップウォッチを取り、ゼロへ戻して机に置いた。

「ここからは時間制限なし」

 颯太が笑った。

 窓の外では、閉会したはずの校庭にまだ拍手が残っている。

 芙佳が覚えているのは告白の言葉より、午後四時の一秒前に、自分で終わりを四秒早めたことだった。