雪原の体温

無人戦車は、人間の体温を追って撃った。

北部の町で生き残った人々は、地下冷凍倉庫へ逃げ込んだ。庫内は氷点下十八度。長くいれば死ぬが、外へ出ればもっと早く死ぬ。

冷凍食品会社の作業員、靫森伴理は、温度管理を任された。

発電機の燃料は七日分。避難者は四十六人。全員を生かすには、交代で身体を冷やし、短時間だけ暖房室へ入れるしかない。

伴理の八歳の息子、冬弦は喘息だった。冷気の中で呼吸が細くなる。

「僕だけ暖かい部屋にいていい?」

息子に聞かれ、伴理は答えられなかった。

父親なら、いいと言うべきだ。管理者なら、全員を同じ順番にするべきだ。

伴理は冬弦の番を増やした。その分、独り暮らしの老人、尾梨が暖房室へ入る時間を削った。

五日目、尾梨が倒れた。

誰も伴理を責めなかった。それが一番つらかった。皆、自分の子でも同じことをすると言った。

六日目、無人戦車が倉庫の前で停止した。センサーがわずかな排熱を捉えたのだ。砲塔が入口へ向く。

伴理は暖房室の配管を外し、自分の防寒服の中へ通した。熱を一人へ集中させて外へ出れば、戦車を遠ざけられる。

冬弦は父の袖を離さなかった。

「また戻る?」

「冷めたらな」

伴理は笑った。

雪原へ出ると、身体から白い湯気が立った。無人戦車が彼を追う。伴理は倉庫と反対方向へ走った。足の感覚はすぐ消えたが、胸の熱だけは配管から流れ続けた。

戦車を凍った湖まで誘い、薄氷の上で砲撃を受けた。氷が割れ、戦車と伴理は水へ沈んだ。

三日後、救援隊が倉庫を見つけた。

冬弦は生き残った。尾梨も片脚を失ったが助かった。

大人になった冬弦は、寒冷地の避難施設を設計した。暖房室は個室ではなく、全員が輪になって座る形にした。誰か一人へ余分な熱を渡したとき、それが見えるように。

竣工式で尾梨が言った。

「お父さんは、お前だけを選んだんじゃない。最後には全員を選んだ」

冬弦は首を振った。

「父さんは、最初に僕を選んだ。そのことも消しちゃいけない」

愛は公平ではない。

だからこそ、人は不公平を知ったあと、次に何を選ぶか問われる。

暖房の輪の中央で、冬弦は父の古い温度計を置いた。針は、人が生きられる温度を指していた。