零号聖炉から鍵を抜く

帝国工廠の地下で、聖女メルティナは《零号聖炉》の心臓として座っていた。

背中の真鍮首輪から無数の管が伸び、戦闘機械へ祝福を送り続ける。首輪の鍵穴に総監の鍵が刺さっている限り、眠ることも止めることもできない。

機関技師ドラクは、新型兵器の起動試験を命じられた。

「出力を倍にしろ」と総監が言う。「聖女は壊れても交換できる」

計器の針が赤域へ入る。メルティナの唇から血が落ちた。

ドラクは制御盤を開き、総監の鍵へ手を伸ばす。

「抜けば炉が爆発するぞ」

「それは設計者の脅し文句です」

彼は鍵を回して自分の所有番号へ変更することもできた。そうすれば工廠も兵器も聖女も、すべて彼の命令に従う。

だがドラクは鍵を根元から折った。

総監が悲鳴を上げる。

折れた先端は首輪の中へ残った。ドラクはさらに制御盤から《主人認証歯車》を外し、床へ置く。小さな歯車一枚だった。

「それがなければ誰も炉を制御できん!」

「誰も、が正解です」

鉄靴で踏みつぶす。

真鍮首輪の留め金が開き、管が次々と抜けた。零号聖炉の轟音が止まり、戦闘機械は一斉に膝をつく。

メルティナは椅子から崩れ落ちた。ドラクは受け止めず、床へ毛布を敷く。触れられることまで命令に感じるかもしれないと思ったからだ。

「逃走路は南の排気坑です。外には共和国行きの貨車がある」

「あなたは?」

「爆発しないことを証明してから、責任者に殴られます」

彼女は初めて小さく笑い、排気坑へ消えた。

一時間後、総監の兵が地下へ突入した。ドラクは工具箱一つで扉を塞ぐ。戦闘機械は動かず、勝ち目はない。

そのとき、停止したはずの零号聖炉に、柔らかな光が灯った。

排気坑からメルティナが戻っていた。首輪も管もない。自分の両手を炉壁へ当て、自分で選んだ量だけ祝福を流している。

一台の作業機械が立ち上がり、兵たちの武器だけを磁力で吸い上げた。

「共和国行きの貨車は」

「見送りました」

「なぜ」

「自由になったので、行き先を選び直しました」

メルティナは総監の折れた鍵を拾い、金床へ置いた。槌を振り下ろし、平たい金属片にする。

そこへ自分の字で《共同管理》と刻み、ドラクへ差し出した。

「主人の鍵ではありません。二人とも嫌なら止められる鍵です」

「私を信用するのか」

「誰も主人にならない仕組みを選んだあなたを、です」

地下で最初に動き出したのは兵器ではなく、二人で押す小さな修理台だった。