雷鉱石は夜に育つ
テオの鉱山は、嵐の日ほどよく稼ぐ。
丘に立つ百本の避雷針が雷を地中へ導き、埋めてある黒石を雷鉱石へ変える。翌朝、土潜りゴーレムが光った石だけ掘り出し、蓄電組合の荷車へ積む。雷は空が落とし、石はゴーレムが拾う。テオは窓から眺めていればいい。
避雷針が一本倒れても、九十九本が残る。翌朝、晴れてから直せばよい。人ひとりへ全系統を背負わせた保守局より、ずっと丈夫な仕組みだった。
王都の魔力網保守局にいたころ、嵐は地獄の始業鐘だった。
黄色い制服は雨染みでまだらになり、襟元には焼けた導線の跡がある。停電が起きれば夜中でも塔へ登り、復旧すれば報告書を書き、眠りかけると次の警報。退職後も携帯導晶には未読の緊急連絡が百件近く残っていた。
今夜も遠くで雷が鳴っている。
テオは暖炉前で豆を挽き、湯を沸かした。丘の避雷針が青白く光るたび、地下で新しい鉱石が育つ。かつては恐怖だった音が、いまは家賃を払ってくれる。
卓上の収益球が一度明滅した。
《雷鉱石予測収量を更新。最低生活費、三十六日分を確保》
まだ掘り出してもいないのに、組合との定期契約で先払いされる。テオは数字を閉じ、珈琲へ湯を注いだ。
携帯導晶が甲高く鳴った。元保守長ボルツだ。
『西区が落ちた! 制御盤の癖を知るのはお前だけだ。すぐ転移門へ来い!』
「行きません」
『市民が暗闇にいるんだぞ』
「引継書の三頁に復旧手順を書きました」
『新人には無理だ』
「新人を一人で夜勤に置いたのは、あなたです」
雷鳴で一瞬、声が消えた。戻った声は低かった。
『見殺しにする気か』
「私が戻らないと市民が危険なら、私を休ませなかった時点で、あなたが危険にしていました」
テオは導晶の緊急回線を抜き、雷鉱石用の蓄電瓶へ差し込んだ。通信魔力まできれいに吸われ、室内が静かになる。
窓の外でまた雷が落ちた。誰かの命令ではなく、ただの天気として響く。
テオは椅子を窓辺へ寄せ、珈琲を両手で包んだ。
今夜は停電を数えず、雨音が眠りへ変わるまで聞いていることにした。