霜の指をほどく火糸手袋

真夜中の手袋店〈十指〉には、試着用の湯呑みが置かれている。

その夜の客イソナは、湯呑みに触れられなかった。指先から白い霜が広がり、近づけただけで湯気が凍って落ちる。

北塔の氷像を彫った際、崩れた氷から助手をかばい、古い冷気の呪いが両手へ移ったのだ。完成した像は師匠の名で献上され、彼女に残ったのは凍る指だけだった。治療院は半年休めと言った。しかし明朝までに王宮の封蝋印を仕上げなければ、職人資格を失う。蝋へ触れれば一瞬で砕け、仕事にならない。

店主ブラミエルは、赤い縫い目の手袋を一組だけ台へ出した。

〈火糸手袋〉。冷気を消しません。指から出た分だけ、手首の火印へ編み直します」

「熱さに変わるの?」

「働いた冷気が、帰り道を覚えるのです」

イソナが手を入れると、内側の糸が指の長さへ伸びた。恐る恐る湯呑みを持つ。薄氷は張らない。代わりに手首の赤い刺繍が、炭火のように明るくなる。

ブラミエルは封蝋を一片差し出した。彼女が親指で押しても、蝋は柔らかいままだ。細かな紋を彫るたび、冷気は火糸へ流れ、指先には必要な感触だけが残る。

試しに作った印は、これまでで最も輪郭が深かった。店の検品紙へ押すと、細い鳥の羽根まで欠けずに写る。資格試験の基準線を、余裕をもって超えていた。

「呪われる前より、指が動く」

「冷たさを敵にせず、道具へ通したからです。ただし夜明けには外してください。火印が満ちたら、窓辺で月へ冷気を返すこと」

イソナは手袋を外しかけ、思い直して両手を胸へ抱いた。

「半年、何も作るなと言われた。私の手なのに、誰も使い方を聞かなかった」

ブラミエルは答えず、彼女が彫った試し印を合格品の箱へ入れた。それで十分だった。

値段は銀貨八枚。彼女は十枚を置き、余分な二枚を補修の前金にした。同じ手袋を長く直しながら使うためだ。

「使い捨てにはしない。これで資格も、私の仕事も手放さない」

白い息を吐きながら彼女が王宮へ走る。ブラミエルが試着用の湯呑みへ新しい湯を注ぐと、冷めるより先に、店のベルが温かな音を立てた。