青磁の酒壺
洪允石が運ぶ酒壺は、一つだけ青かった。
灰色の粗陶が九つ。青磁が一つ。青磁には王宮の宴でも使える薄い釉がかかり、貫入が冬の川のように走っている。敵兵が奪うなら、誰もが青磁を選ぶ。
だから允石は、その中身だけ酢にした。良い器ほど欲しがられ、まずい中身ほど手元へ戻る。人の欲と舌を一度に使う偽装だった。
山城・月岑へ届ける軍書は、壺の高台にある空洞へ封じてある。敵の包囲陣を抜けるには、酒売りとして三つの酒幕を通らねばならない。すべて奪われても、青磁だけが残ればよい。
最初の幕で、兵たちは灰壺を二つ開けた。酒を柄杓で飲み、残りも置けと命じる。允石は抵抗せず、青磁へ手を伸ばした若兵だけを止めた。
「それは将軍用だ。庶民の舌では味が分からぬ」
若兵は怒って栓を抜き、ひと口含んだ。すぐ允石の顔へ吐きつけた。
「腐っている」
「南の酸酒です。肉に合う」
笑いが起きた。青磁は返された。
二つ目の幕でも同じだった。三つ目には、酒を飲まない敵の軍監・徐官がいた。細い指で青磁の貫入をなぞり、壺底を軽く叩く。
「音が鈍い。二重底だな」
允石は喉の奥で息を止めた。ここで壺を割られれば終わる。
「青磁は土が薄い。高台を厚くしなければ、馬で運ぶ途中に割れます」
徐官は栓を抜き、匂いだけを嗅いだ。
「本当に酢だ。なぜ将軍へ酢を運ぶ」
「将軍は今夜、勝利の肉を食うのでしょう」
徐官の目が冷えた。敵将は明朝の総攻めを秘密にしている。知っている酒売りは怪しい。だが総攻めを確信している商人なら、城へ売りに行く理由もある。陥落後の最初の客になれるからだ。
「通せ。城内で一緒に吊るしてやる」
敵兵が笑い、最後の柵が開いた。
月岑の門前で、允石は残った青磁を頭上へ上げた。城兵は矢を向けたまま、縄籠だけを下ろす。壺が城壁へ引き上げられ、守将は槌で高台を砕いた。
空洞から細い絹が出る。『総攻めは寅刻。南壁を捨て、北門より逆襲せよ』。
允石はまだ城外にいた。背後では敵の巡回兵が松明を近づけている。
月岑の北楼から、逆襲を告げる一発の号砲が上がった。