飛行禁止区域の墜落記録

白妙ヶ原伶佳のドローンが、工業団地の太陽光パネルへ墜落した。

機体は砕け、パネル四枚が割れ、点検通路の柵まで曲がっていた。操縦していたのは友人の黒羽ヶ丘美月だった。

「結婚式の余興動画を撮りたかったの。伶佳は何台も持ってるし、友達なら一台くらい貸してくれてもいいでしょ」

伶佳は貸していない。美月は、撮影会で伶佳のタブレットへ触れた際、機体の解錠コードを自分の端末へ転送していた。

墜落場所は空港の進入経路に近く、飛行には手続きが必要な区域だった。機体は警告を出して自動停止しようとしたが、美月は制限解除用の設定を検索し、位置情報を偽装して離陸させていた。

「誰もけがしてないし、パネルなんて保険で直るよ」

伶佳は飛行ログを提出した。

操縦端末、離陸地点、高度、警告、解除操作、墜落時刻。すべて美月のスマートフォンと結び付いている。結婚式場のスタッフには〈伶佳の会社から許可済み〉と説明し、有料の空撮オプションとして新郎新婦から十五万円も受け取っていた。

ドローンは伶佳の映像会社が測量用に登録した機体で、価格は二百万円。墜落による機体損失に加え、パネル交換、発電停止、柵修理、緊急点検を合わせた損害は五百万円を超えた。

美月は新郎新婦へ、風のせいで失敗したと説明していた。飛行ログと無許可の事実を知った二人は、撮影代の返金も求めた。

「友達の結婚式を台無しにしたくないでしょ」と美月は伶佳へ言った。

「台無しにしたのは、許可があると嘘をついた人です」

航空関係の行政機関は、飛行経路と位置情報偽装について確認を開始。工業団地の所有会社は修理費を美月へ請求し、式場も今後の出入りを禁止した。

美月は預金だけでは足りず、所有する高級撮影機材を売却し、残額を分割で支払う合意書へ署名した。

墜落ログに操縦者名〈黒羽ヶ丘美月〉が確定登録され、伶佳の新しい機体へ本人認証が追加された瞬間、ただで空を借りた女には、地上へ落ちた損害だけが残った。