駅名しりとり
大雨で電車が止まり、花房柚羽と宗像惇平は無人駅に取り残された。
復旧見込みは四十分後。待合室には古い路線図と、動かない扇風機と、二人しかいない。
「暇」
「宿題すれば」
「もっと暇になる」
惇平が路線図を指さした。
「駅名しりとり」
柚羽は鼻で笑ったが、三分後には本気になっていた。
「桜木、き」
「木津川、わ」
「若葉台、い」
「伊奈森、り」
「り、ないじゃん」
「ある。隣県に梨園前」
「今作ったでしょ」
スマートフォンで調べると、本当にあった。柚羽は悔しくて、全国の路線図まで検索し始めた。
最初の十分で、二人は同じ路線の駅を使い切った。次は修学旅行で通った駅、さらに親戚の家の最寄り駅へ広がった。惇平が『小机』と言えば、柚羽は『机なら学校に戻ればある』と返す。『恋ヶ窪』を出したときだけ、どちらも一瞬黙り、雨音が急に大きくなった。
二十分後、勝負は「ん」のつく駅名を言った方が負けという独自ルールになり、三十分後には駅名でなくても、その駅で降りたい理由を言えれば続行できることになった。
「海浜公園。海が見たい」
「園田。競馬」
「高校生が言うな」
「見るだけ」
雨音が屋根を叩く。普段の惇平は教室の後ろで騒いでいるのに、二人きりだと声が少し低かった。
「柚羽は、どこで降りたい?」
路線図の端を見ながら、柚羽は考えた。
「卒業したら、東京」
「とうきょう、う」
「しりとり続けるの?」
「宇治。俺も行く」
「京都じゃん」
「違う。東京に」
惇平は視線を路線図から外さなかった。
「同じ学校は無理でも、同じ町くらいなら狙える」
柚羽は返す駅名を探した。けれど「る」で始まり、今の気持ちに合う駅は見つからなかった。
そのとき復旧を知らせる放送が流れた。
電車が来るまであと五分。柚羽は路線図の東京付近を指でなぞり、ようやく言った。
「留学橋」
「そんな駅ない」
「今作った。卒業したら、そこで待ち合わせ」
惇平は笑って、大きく丸を作った。
駅名しりとりは、そこで初めて引き分けになった。