『一文字だけ青い』
デザイン職の二次面接で、柊木悠馬のポートフォリオ盗用が告発された。
匿名メールには、社内デザイナーの作品と柊木の提出物を並べた画像がある。構図も説明文も同じだった。
部門長の東雲啓介は冷たく言った。
「応募資格を取り消します。若いからといって、他人の仕事を自分のものにしてはいけない」
採用担当の八田莉央は、二つの画像を交互に拡大した。
説明文の「纏う」だけが青い。
柊木は、提出時は黒だったと主張した。東雲は「盗んだ後で直したのでは」と笑う。
八田が採用システムの版履歴を開く。柊木の原本は先週月曜十時二分に提出され、全字黒。十時六分、東雲が面接用コメント機能で「纏う」を選択し、青い校正印をつけている。その七分後、原本が社内共有フォルダへ書き出された。
「面接官用の確認です」
「書き出し先が、なぜあなたの部下の個人フォルダなんですか」
その部下は、今回の欠員へ社内応募していた。十一時四十分、柊木の作品を自作として提出。匿名告発は十一時四十三分に送られている。添付画像の青い一文字は、東雲が校正した書き出し版にしか存在しなかった。
東雲は、部下が独断で流用したと言った。
だが会議室予約には〈社内候補の作品整理〉があり、東雲と部下が同席。添付メモには〈外部候補より先に登録すれば原作者に見える〉と、東雲のアカウントで追記されていた。
柊木は黙って青い字を見つめた。自分の作品に残された傷が、所有者を証明していた。
八田は応募取消のボタンを閉じた。
「柊木さんの面接を続けます。実技試験へ進んでください。東雲部門長と社内候補者は、今回の選考から外します」
八田は社内候補の提出時刻をさらに確認した。締切は十一時半で、提出は十分遅れているのに、東雲だけが受付時刻を十一時二十九分へ修正していた。匿名メールには〈柊木が締切後に盗んだ〉とあるため、時刻の改変まで筋書きに組み込まれていた。柊木は作品の制作過程を一枚ずつ示し、鉛筆ラフの撮影日時が半年前から連続していることも証明した。青い一文字は最後の鍵にすぎなかった。
一文字だけ青い「纏う」が、盗まれた作品を柊木の名前へ纏わせ直した。