『青く塗られた残業』

賞与査定面談で、課長はチーム全員の前に集計表を映した。

今年の特別賞与は課長と主任だけ。ほかの社員は「残業削減への貢献が不足」とされていた。

夜間対応を一手に引き受けた社員が尋ねた。

「私の百二十時間は、どこへ消えたんですか」

表には残業時間が十二時間としか載っていない。課長は、本人が申請を怠ったのだと答えた。

経理担当が、先月退職した給与担当者のファイルを共有した。名前は「青は消してはいけない.xlsx」。

課長は「あの人の色分けは古い」と笑った。

ファイルでは、承認済み残業が青、未承認が黄色で表示されていた。社員の百二十時間はすべて青。ところが賞与集計用シートへ転記される際、先頭の数字だけが削られ、十二時間になっていた。

変更者は主任。更新時刻は深夜二時三分。

主任は在宅で修正したと認めた。

「重複申請を整理しただけです。課長の指示でした」

課長は即座に否定した。

退職者のファイルには、修正前日のメールが保存されていた。課長から主任へ、「残業を減らせば管理職賞与が上がる。青い行を短くしておけ」と送られている。CCは給与担当者。課長は送信後、CCを外した再送メールだけを証拠として残していた。

「冗談だ。実際の勤怠とは別の試算だ」

経理担当が入退館記録を重ねた。社員は百二十時間分、実際に社内へ残っている。さらに夜間の顧客対応メールも同時刻に送られていた。一方、課長と主任の集計表には存在しない残業がそれぞれ八十時間追加されている。二人が退館した後の時刻ばかりだった。

主任は課長を見た。

「自動入力だと聞きました」

退職者は自動入力の設定ファイルも残していた。社員の青い時間を削り、その分を課長と主任へ振り分ける処理。作成者は課長、実行予約は主任だった。

面談室の壁時計が、賞与決裁の締切を告げた。

経理担当は集計を元へ戻した。

「特別賞与の配分を再計算します。課長と主任は対象外です」

社員の欄に、百二十時間と最高評価が戻る。

人事部長は、課長の次長昇進予定も削除した。

確定ボタンが押され、青い行だけが最後まで画面に残った。