『会議録の十二秒』

全国営業朝礼で、高良百花は表彰台の脇に立っていた。地方店舗の空き時間をオンライン相談窓口にする企画で、支社長の土岐橋慎吾が最優秀賞を受ける。

「現場の声を聞き、私が構想しました」

土岐橋が笑うと、全支社をつないだ画面から拍手が聞こえた。

本社審査員の荻窪優が、発案時の会議について尋ねた。

「六月七日の地域会議ですね。私がその場で口頭提案しました」

百花は顔を上げた。

「その会議に、支社長は参加していません」

土岐橋はマイクを握ったまま答えた。

「途中参加した。記憶違いだろう」

荻窪がオンライン会議の参加履歴を表示した。土岐橋の入室は会議終了十二秒前。しかもマイクもカメラも一度もオンになっていない。

「十二秒あれば資料は確認できる」

「企画はその四十分前に私が発言しています」

百花が会議録の自動字幕を開く。十五時十四分、彼女が企画の骨格を説明し、参加者が質問している。土岐橋の名前が出るのは、終了直前に招待リンクを開いた記録だけだった。画面共有の閲覧時間も七秒で、百花が説明した二十枚の資料を読み切れるはずがない。会議後の質問メールもすべて百花宛てで、土岐橋は一通にも返信していなかった。試験店舗との調整履歴にも彼の名はなかった。

土岐橋は語気を強めた。だが全国中継の向こうから、返事は一つもなかった。

「部下の提案を採用し、企画書にしたのは私だ」

荻窪は共有ファイルの版履歴へ切り替えた。初稿から第八版まで作成者は百花。第九版で土岐橋が作成者欄を消し、タイトルに「支社長提案」と加えていた。更新時刻は表彰応募締切の七分前。

「私は支社を代表しただけだ」

「代表者と発案者は同じとは限りません」

荻窪は表彰状を画面の外へ下げ、別の一枚を出した。

「最優秀賞は高良百花さんへ変更します。土岐橋支社長の本部長昇進推薦は取り下げます」

全国の支社から、今度は百花の名を呼ぶ拍手が届いた。