お化け屋敷の本職たち

 小学校の文化祭。六年二組のお化け屋敷は、体育館の裏倉庫まで使う本格派だった。

 暗闇へ最初に入ったのは、娘を迎えに来た刑事の水主町貴澄。

 次は、息子の演技を見に来たマフィア幹部の花房モーリス。

 最後は、寄付金箱を狙って忍び込んだ泥棒の鵙屋鹿乃。

 三人は真っ暗な曲がり角でぶつかった。

「誰だ」と貴澄。

「こちらの台詞だ」とモーリス。

「お化け役です」と鹿乃。

 二人は鹿乃を児童の保護者スタッフだと思い、鹿乃は二人を警備役だと思った。

 奥から子どもの声がする。

『次のお化けさん、準備して!』

 鹿乃はとっさに白布をかぶった。

「私が先に脅かします。お二人は金庫の前を離れて」

「金庫?」と貴澄。

「寄付金を入れる箱です」

「場所を知っているのか」

「スタッフですから」

 モーリスが感心する。

「周到だな。うちの若い者にも見習わせたい」

「若い者?」

「組の子たちだ」

「組?」

「保護者の集まりだ」

 貴澄は警察官らしい疑いを持ち、鹿乃は話題を変えた。

「血のり、使います?」

「本物のほうが迫力はある」とモーリス。

「冗談でもやめてください」と貴澄。

「お前は何役だ」

「刑事です」

「設定が細かい」

「本職です」

「役へ入りすぎだ」

 そのとき怖がった児童が走ってきて、モーリスへぶつかった。彼の上着から護身用の短刀が落ちる。

「小道具、本物みたい!」

 子どもたちは大喜びした。

 貴澄が短刀を拾う。

「刃がついています」

「果物も切れる優れものだ」

「学校へ持ち込む物ではない」

 鹿乃は騒ぎに乗じ、寄付金箱を抱えた。

「では私は次の持ち場へ」

「その箱も小道具か」とモーリス。

「ええ。重いので出口まで」

 貴澄が白布の端を踏む。鹿乃は前へ倒れ、箱から小銭が散った。

 そこへ担任教師と子どもたちが照明をつけた。

「何をしているんですか。お化け役の保護者は全員、隣の教室にいますよ」

 倉庫が急に明るくなる。

 娘の小榑真琴が、手錠を持つ父と短刀を持つ男と白布の泥棒を見比べた。

「お父さん、今年の出し物すごいね」

 貴澄は鹿乃へ手錠をかけた。

「本物を混ぜる予定はなかった」