きのこ鍋の名前
登山好きの脩悟が、秋の山から茸を持ち帰った。
もちろん食用と確かめた市販の栽培品で、道の駅で買ったものだ。それでも同居人の茅里は警戒した。
「名前、全部分かる?」
「舞茸、なめこ、平茸、椎茸」
「その白いのは」
「ぶなしめじ」
袋を並べると、森の地面のような匂いがした。
昆布出汁へ茸を入れ、鶏肉と葱を足す。煮えるほど、種類の境目が分からなくなる。
「これが平茸?」
茅里が箸で持ち上げる。
「たぶん舞茸」
知った顔をしていた脩悟も、鍋の中では自信がない。
二人は名前を当てながら食べた。なめこのぬめり、椎茸の厚さ、舞茸の香り。間違えるたび笑う。
締めの雑炊には、すべての味が混ざった。もう何茸かを問う意味はない。
翌日、残った茸で炊き込みご飯を作った。山へ持っていき、紅葉の下で食べる。
茅里は落ち葉を拾い、「これ何の木」と訊いた。
脩悟は答えられなかった。
「名前を知らなくても、きれいだね」
湯気の消えたご飯から、昨夜の鍋より濃い茸の香りがした。山の名も木の名も全部は知らないまま、二人の秋だけは舌の上にはっきり残った。
翌週、二人は道の駅で茸の名前を一つずつ確かめた。店員に香りや歯触りを聞き、札を写真に撮る。帰宅して鍋へ入れる前、小皿へ分けた。煮えたあとに当てるつもりだったが、やはり半分は間違えた。茅里は札を冷蔵庫へ貼り、脩悟は山の地図をその横へ置く。知っている名は増えても、湯気の中ではまた混ざる。鍋底の雑炊をすくう頃、部屋には森より濃い土の香りが残り、二人の答え合わせを無意味にした。
春になっても冷蔵庫の札は残った。茸の季節が終わると、写真の褐色が少し遠く見える。茅里は新しい山菜の札を隣へ貼り、脩悟はまた名前を覚え始めた。湯を沸かす鍋だけは同じだった。
春の山菜も、茹でれば名前の札と違う形になった。二人はまた間違え、食卓へ土と若葉の匂いを増やした。