もぐら村の朝だけ水路
「魔物の巣へ入口を一つ増やすだけ? 逃げ穴なら最初から掘れ」
地下開拓局の査定で、ポメラは無能と判定された。
【技能:《もう一つの巣口》――触れた魔物の巣一つへ、視界内の地面に通じる入口を夜明けまで一つ増やす】
入口は人ひとりが通れる大きさで、朝には閉じる。ポメラは乾いた盆地へ送られ、地走り大土竜の一家と暮らした。
大土竜は畑を荒らすと嫌われたが、実際には硬い土を砕き、石を地上へ押し出していた。ポメラは母土竜をドロネと呼び、掘り出された石で畝を囲んだ。雨がないため作物は小さかったが、夕方には土竜の子と一緒に芋を数えるのが楽しみだった。
三年目、盆地の井戸が枯れた。
丘の向こうには湧き水がある。しかし山を回る水路を掘るには十年かかる。地下王ドルカスは住民へ移住を命じ、翌朝には家を取り壊す兵まで送った。
ポメラは夜明け前、ドロネの巣の中央へ入り、丘の湧き水を見渡せる見張り台へ登った。
「入口を水の中へ作れば、巣が沈むぞ」
兵が叫ぶ。
「この巣は穴ではありません。畑の下を通る、何百本もの道です」
彼女は巣壁へ手を置き、湧き水の岸を指す。
《もう一つの巣口》。
泉の底に丸い穴が開いた。水は土竜の主道へ流れ込み、そこから細い支道へ分かれる。ドロネたちは前夜のうちに畑の畝へ小さな通気穴を掘っていた。水はその穴から静かに染み出し、乾いた根を濡らしていく。
朝日が昇ると、泉の入口は閉じた。巣には必要なぶんだけ水が残り、土竜たちは高い寝室で平然と丸まっている。
ポメラは毎晩、別の畑へ流路を整え、夜明け前に一度だけ泉とつないだ。ひと月後、盆地は緑の縞模様になった。芋は両手で抱えるほど育ち、移住用の荷車は収穫車へ変わった。
査定官が「土竜が道を掘っただけ」と言う。
ドルカスは兵へ家屋解体を止めさせ、王冠についた地下水晶をポメラへ渡した。
「王は永遠の水路を造ろうとして、十年を数えた」
地下王は朝日に閉じた巣口を踏む。
「おまえは一晩の水路で、明日の畑を作った。盆地の開拓印は今日からおまえが持て」