やることを三つ消す
日曜の午後二時四十分、牧村芙由は、腹の上に置いた湯たんぽが冷えていることに気づいた。
朝から下腹が重く、薬を飲んだあと少し横になった。眠れば昼には動けると思っていた。けれど目を覚ますと、カーテンの向こうは午後の白い光で、予定表の通知が三つ重なっていた。
〈図書館の返却〉
〈日用品の買い足し〉
〈浴室の掃除〉
その下には、友人への返信、冬物の整理、作り置きとも書いてある。どれも大きな用事ではない。だからこそ、一つもできない自分が大げさに怠けているように思えた。
芙由は起き上がり、靴下を片方履いたところで、またベッドへ座った。床に置いたトートバッグから、図書館の本が二冊のぞいている。返却期限は今日だが、駅前の返却箱は夜まで開いている。行けない距離ではなかった。
スマートフォンで時間を調べるうちに、腹の奥が細く縮んだ。画面を閉じ、冷えた湯たんぽへ湯を入れ直す。台所までの往復だけで、額に汗がにじんだ。
予定表を開き、三つの用事を削除した。完了の印ではなく、別の日へ移すための削除。図書館の本はオンラインで一度だけ延長した。日用品は残りを使う。浴室は今日は洗わない。
削除するたび、何もしていない証拠が増えるようで怖かった。けれど、画面から文字が消えると、腹の上に少しだけ空間ができた。
クラッカーを二枚食べ、未読の友人へ〈今日は返事ゆっくりする〉とだけ送った。事情は説明しなかった。
休日を寝て過ごした罪悪感は残っている。身体が必要としていた睡眠だと、きれいに納得もできない。それでも芙由は、温かくなった湯たんぽを抱え直した。
湯たんぽのゴムは古く、湯を入れると少し薬品の匂いがした。芙由は腹の上で位置を変え、最も楽な場所を探した。動けない理由を証明する数字も診断名も、今は持っていない。それでも、痛みを我慢して外へ出ることだけが、休日を正しく使う方法ではなかった。
今日は三つ達成する代わりに、三つやらないと決めた。その決定だけは、眠らずに自分で選んだ。