ケチャップの猫
古賀牧子の弟、透也が初めて作った料理は、破れたオムライスだった。
薄焼き卵は途中で裂け、チキンライスが端からこぼれていた。上にはケチャップで猫らしい顔が描かれていたが、耳は片方しかない。
高校生だった牧子は、「火が強すぎ。ごはんもべたべた」と採点するように言った。弟は笑って「次は百点にする」と答えた。
その次を食べる機会は来なかった。何年経っても牧子は、まずかったとは思い出せても、おいしいと言わなかった自分だけを許せなかった。
弟の命日に、飼い猫のまだらが冷蔵庫の前から動かなかった。
「卵はあげないよ」
そう言いながら、牧子はフライパンを出した。
透也のオムライスを、上手に作ってはいけない気がした。玉葱を少し大きく切り、ケチャップライスをわざとやわらかめにする。ところが卵だけは、長年の癖できれいに巻けてしまった。
牧子は箸で中央を少し破った。
黄色い表面から赤いごはんが覗き、ようやく記憶の皿に近づいた。
ケチャップで猫の顔を描く。片耳を忘れたふりをして、最後に小さく足した。
まだらが椅子へ上がり、鼻を近づける。
「これは、透也の猫」
牧子は皿を弟の写真の前へ置き、しばらく眺めてから、自分の席へ戻した。
ひと口食べる。玉葱はしゃきりと残り、卵の端は少し焦げていた。完璧ではないからこそ、弟が照れながら差し出した夜の温度に近かった。
「おいしい」
牧子は声に出した。
一度では足りない気がして、もう一度言った。
「すごく、おいしいよ」
まだらが尻尾でテーブルの脚を叩き、写真立てがわずかに揺れた。返事のようには聞こえなかった。それでよかった。
食べ終わる頃、ケチャップの猫は耳から崩れていた。台所には炒めた玉葱とバターの香りが残り、牧子の舌には、今になってつけ直した百点の味が温かく残った。
翌朝、牧子は残ったチキンライスを弁当へ詰めた。猫の顔は描かなかったが、蓋の裏へ小さく百点と書いた紙を貼る。届かない採点でも、言わないよりはよい。まだらは紙を剥がそうと前足を伸ばし、牧子に抱き下ろされた。