スコアはゼロのままで
最後の大会、サッカー部はPK戦で負けた。
公式記録は〇対〇。延長まで百十分走っても、スコアはゼロのままだった。
キーパーは最後の一本に触れた。指先をかすめ、ボールはゴールへ入った。試合後、彼は冷たいタオルを受け取らず、グローブを見つめていた。
「あと一センチだった」
マネージャーの私は、返す言葉がなかった。
学校へ戻った夕方、彼はゴール前に立っていた。誰もいないグラウンド。ボールもないのに、何度も右へ跳び、左へ跳んだ。
「もう終わったよ」
「分かってる」
「足、つるよ」
「分かってる」
私は保冷箱からタオルを出し、ゴールポストへかけた。
彼はまた右へ跳んだ。着地で膝をつき、立ち上がらなかった。
「ゼロで守ったのに」
「うん」
「一本止められなかっただけで負けた」
「うん」
慰める言葉を探さなかった。彼が欲しいのは正しい説明ではない。
「マネージャーは、負けた試合も記録する?」
「する」
「消したくならない?」
「ならない」
私はスコアブックを開いた。シュート数、交代、警告、延長、PK。最後の欄に敗戦の印。
「これがないと、ゼロで守ったことも消える」
彼はページを見た。
負けは、守れなかった一本だけではない。守った九本も、止めたクロスも、声を出し続けた時間も全部含んでいる。
「タオル、冷たい?」
「たぶん」
「たぶん?」
「待たせすぎてぬるい」
彼は立ち上がり、ポストのタオルを首にかけた。
「ほんとだ」
「ごめん」
「ちょうどいい」
夕日がゴールネットの四角を長く地面へ映した。スコアはゼロのまま。けれど、何もなかったわけではない。
卒業式の日、彼は私に小さなキーホルダーをくれた。白い数字のゼロ。
「縁起悪くない?」
「俺の一番よかった試合の点数」
私はそれをスコアブックにつけた。
負けた印の隣で、ゼロはずっと丸く残った。
後日、写真部が撮った試合写真を見た。彼が跳んだ瞬間、ベンチの私は祈るように両手を組んでいた。止めたのは彼で、信じ続けた時間だけは私の記録だった。