セーブデータの味

ネットカフェの後悔販売機は、三百六十五日以上開いていないセーブデータだけを受け付ける。会員証をかざし、削除するスロット番号を入力すると、機械が端末からデータを消す。バックアップが一つでも残っていれば商品は出ず、削除だけが実行される。

蒔田は個室七番で、古い協力ゲームを起動した。最終プレイは四百二十一日前。キャラクターは二人、雪山の山小屋で並んだままになっている。一人は蒔田の剣士、もう一人は大学時代の友人が使っていた弓手だった。

友人は去年の春に死んだ。アカウントは解約されず、弓手だけがログアウト状態で残った。蒔田は月に一度ログイン画面まで進み、ロードはしなかった。開けば日数が戻り、販売機へ入れられなくなるからだ。

今夜、新作の大会へ出るために空き容量が必要だった。削除候補は他にもある。それでも蒔田は、このデータを後悔と呼ばない限り、ずっと個室七番を予約し続ける気がした。

販売機の画面でスロット「13」を選ぶ。確認欄には、後悔を十五文字以内で入力する。

〈最後の戦闘で先に逃げた〉

機械は〈ゲーム内行為〉として拒否した。

〈葬式より先にログインした〉

今度は〈比較対象を入力できません〉

蒔田はキーボードから手を離した。友人が亡くなった夜、連絡を受けても信じられず、ゲームを起動した。弓手がログインするかもしれないと思った。三時間待ち、山小屋の暖炉だけを見ていた。

〈来ないと知っていて待った〉

決定を押す。端末の山小屋が暗転し、二人分の名前が消えた。販売機から、温かいエナジードリンクが一本出た。ラベルには蒔田の名前ではなく、弓手のキャラクター名だけが印刷されている。

彼は飲まずに店を出た。缶を振ると、液体の中で硬貨が鳴った。帰宅して缶切りで開けると、底からゲームセンターの古い続行コインが出てきた。表には「CONTINUE」、裏には友人の右親指の指紋が、雪の結晶のように白く残っていた。

大会当日、蒔田は続行コインをモニターの下へ置いた。敗退画面が出た瞬間、裏の白い指紋が一度だけ明るくなった。コインは回転せずに立ち、CONTINUEの最後のEだけを雪のような粉にして、キーボードの十三番キーへ降らせた。