ブロック解除は七分間

二十三時五十三分。小田巻灯花は綾部聡司のブロックを解除した。

〈零時まで七分だけ。あの日の嘘を説明して〉

送ると、すぐ送信済みになった。既読はつかない。

灯花の財布には、水族館の青い入場券が一枚残っている。聡司が「出張」と言った日に、二人で行くはずだった券だ。だがその夜、彼が知らない女を抱きしめて駅へ入る写真が届いた。問いただすと、聡司は「今は言えない」としか答えなかった。

二十三時五十五分。未読。

灯花は券の裏へ、ボールペンで線を引く。一分ごとに一本。七本で終わりにするためだった。

二十三時五十七分、聡司のアイコンの下に「入力中」と出た。長い文章らしい。だが文字は届かない。

二十三時五十九分。入力中の表示が消えた。

零時。約束どおり、灯花はブロックの画面を開く。

一瞬だけ迷った。聡司は地下鉄で帰ると言っていた。トンネルなら電波が切れる。けれど灯花は、届かなかった理由まで自分で用意して待ち続けることに疲れていた。

ブロックする。

零時一分、共通の友人から写真が届いた。駅で聡司が抱きしめていた女の正面。顔立ちは彼によく似ている。

〈これ、聡司のお姉さん。離婚して家を出た夜だった。本人に口止めされて、聡司は灯花に言えなかったらしい〉

続けて、聡司が友人へ送ったスクリーンショットが来る。

〈写真の人は姉です。嘘をついたのは、姉のことを守るためだった。でも灯花を傷つけたことは、理由にならない。七分で許してとは言わない。ただ、未読のまま終わらせないでほしい〉

送信時刻は二十三時五十九分。地下鉄が地上へ出た零時一分に届き、すでにブロックされていた。

真実は、七分に二分遅れた。

灯花は水族館の券を裏返す。七本の線の隣に、空白がある。もう一本引けば、八分目の猶予になる。

携帯には〈ブロックを解除〉のボタンがある。触れれば、聡司の言葉は届く。

灯花は、彼が姉を守ったことを理解した。理解しても、自分へ嘘をついた夜が消えるわけではなかった。

青い券を半分に折り、灯花は〈ブロックを解除〉の画面を閉じた。