一円の第三者評価

脱炭素スタートアップ「カーボンウィーブ」へのインパクト投資会議で、六波羅沙知は外部ESG調査会社の新人だった。農地へ特殊炭をまき、一年間で二十万トンの二酸化炭素を固定したという。

第三者評価書には「削減量200,417トン」とあり、独立評価機関グリーンアクシスの代表署名と角印が押されていた。この数字を基に、基金は三十億円を投資する。

沙知は評価機関の登記を調べた。設立日は七月十二日。評価書の日付は七月八日。会社が生まれる四日前に、法人名義で署名している。

創業者は、個人事業時代から評価していたと説明した。

しかし評価書には法人番号が記載されている。その番号は設立後にしか発行されない。角印の印鑑届出も七月十三日だった。

さらに株主名簿を見ると、グリーンアクシスの全株式をカーボンウィーブ創業者が一円で取得していた。契約上の「資本関係のない独立第三者」という保証と正反対だった。

基金理事は、評価手法が妥当なら資本関係は形式だと言った。

沙知は土壌測定表を一枚示した。二十万トンの計算は、試験農地二ヘクタールの結果を二万ヘクタールへ拡大したもの。しかし契約済み農地は二百ヘクタールしかない。面積にもゼロが二つ足されていた。

創業者は、投資後に農地を確保すると答えた。

「将来の削減力へ投資する案件です」

「将来を評価したなら、過去形で二十万トンと署名できません」

沙知は評価書の角印へ登記事項証明を重ねた。理事長が三十億円の公印を持つ手を止める。

沙知は評価機関の担当者へ連絡した。電話に出たのはカーボンウィーブの経理社員で、グリーンアクシスとの兼務を認めた。評価費五千万円も、投資実行後にカーボンウィーブから支払い、同日中に貸付金として戻す契約になっていた。独立性だけでなく対価まで循環していた。

沙知は測定機器の貸出台帳も示した。二万ヘクタールを測る台数はなく、所有機器は一台だけだった。

一円で作られた第三者が、基金の決裁から第三者性を奪った。