一声だけが届く謁見室

新築された謁見室では、国王の言葉が三度聞こえた。石壁と丸天井が声を跳ね返し、「進軍せよ」が「慎重にせよ」に聞こえたせいで、軍議は半日混乱した。

宮廷建築家は玉座を高くすると言った。音響係のフェリクは首を振った。

「大きくするほど、反射も大きくなります。返ってくる声を減らします」

彼は玉座の後ろと向かいの壁に、厚い羊毛布をひだ付きで吊った。それだけだった。金箔も魔法石もない。

廷臣たちは貧相だと笑ったが、フェリクは手を一度叩いた。

改修前、拍手は四回ほど重なって消えた。

改修後は、最初の一音の後に短い余韻が一つ。石に返るはずの音を、羊毛の柔らかな層が吸っていた。

国王が玉座から小声で言った。

「北門を閉じよ」

三十歩先の衛兵が即座に復唱した。さらに声を落とす。

「白い馬を用意せよ」

今度も一語違わず届く。室内の百人が息を潜めても、隣の者の衣擦れと国王の声が混ざらなかった。

使った布は宴会用の古い壁掛け十二枚。工事は一時間。玉座増築案の費用の六十分の一だった。

宰相は、聞き違いで作り直した命令書の山を見た。それだけで金貨三百枚が消えている。

国王は最後に、普通の声で告げた。

「次の使節会談は七日後だ。大広間と軍議室も同じように整えよ」

ちょうど隣国の使節が到着していたため、国王はその場で試した。通訳を室の端へ立たせ、条約文を一度だけ読み上げる。以前なら反響で数字が重なり、書記が三度聞き直していた。今回は「兵糧二千袋、期限九十日」が一度で全員の記録に揃った。

使節は、自国の大広間では声を通す魔法石に金貨五千枚かかると漏らした。フェリクが使った布は倉庫で埃をかぶっていたものだ。廷臣たちは見栄えを理由に外そうとしたが、国王はひだの奥へ金糸を一本通させただけで残した。豪華さより、命令が正確に届くことを選んだのだ。

そしてフェリクへ宮廷建築家の銀章を投げ渡した。

「今日から王室音響設計官として採用する。この国で、命令を二度言わせるな」