一本の果樹に席を譲る

木こりのローディが伐採組合を辞めたのは、樹齢千年の森を切れという命令を拒んだからだった。

退職金代わりに与えられたのは、枯れた果樹ばかりの捨て農園。組合長は「好きなだけ死に木を眺めろ」と笑った。

初日、ローディは中央の梨の木を一本だけ選んだ。

幹は灰色で、枝の半分が折れている。薪にすれば一冬分にはなる。だが小刀で樹皮を薄く削ると、その下に細い緑が残っていた。

「まだ決めてない顔だな」

生きるか枯れるか。なら、人間が先に決めることではない。

ローディは乾いた枝だけを切った。切り口へ粘土と油を練った薬を塗り、裂けた幹を布帯で支える。剪定鋏を入れるたび、乾いた枝は軽い音で折れ、生きた枝は刃を押し返した。ローディはその差を手で覚えていく。切り過ぎれば、残った力まで奪う。迷う枝は翌日まで残した。幹の根元には固い草が巻きついていたので、樹皮を傷つけないよう一本ずつほどく。土が見えると、細い根が地表近くまで伸びていた。彼は水を一杯だけ注ぎ、吸い込む速さを黙って見守った。

大仕事に見えたが、夕方までに手を入れられたのは一本だけだった。

隣村の薪商人が荷車で現れた。

「全部まとめて銀貨十枚で買おう。どうせ実はならん」

「今日は売らない」

「明日なら?」

ローディは返事をせず、切り落とした枝を薪の長さへ揃えた。ただし燃やすのは完全に枯れた部分だけだ。

小さな焚き火へ鉄網を置き、黒パンと白いチーズを炙る。チーズの縁が溶け、脂が火へ落ちて香ばしく弾けた。

薪商人はまだ値を上げたが、ローディは梨の木の根元へ古い椅子を運んだ。

座ろうとして、幹の低い位置に小さな膨らみを見つける。

枝の陰に隠れていた冬芽だった。

彼は椅子を半歩ずらし、芽へ西日が当たる場所を空けた。

「その木に何の価値がある?」と商人が聞く。

ローディは溶けたチーズをパンで受け止めながら答えた。

「明日を決める席を、一本ぶん残している」

商人が去ったあと、梨の木とローディは同じ夕日を分け合った。