一枚ずつとは書いていない
真鍋禄は、自分のマイナス九を笠松紗英の前へ置き、彼女の六と五をまとめて引き寄せた。
「二枚とももらう」
紗英が立ち上がる。
「交換は一枚ずつでしょう!」
外村志津は自分の四と四を抱え、壁の規則を読み直した。
〈各参加者は一度、相手を指名してカードを交換する。指名された者は拒否できない。終了時、手札合計が最大の者を解放する〉
開始時、禄の手札は十とマイナス九、合計一。紗英は六と五で十一。志津は四と四で八。誰が見ても禄が最下位だった。卓には交換枚数を指定する枠もなく、提示した札をまとめて読み取る一つの広いセンサーだけがあった。
だが規則には、交換枚数が同数でなければならないとも、一枚対一枚とも書かれていない。
「僕は一度の交換で、こちらの一枚と、そちらの二枚を提示した」
『交換は等価な数量で行うのが常識です』
「価値が等しい必要も、枚数が等しい必要もないから交換なんだ。売買じゃない」
指名拒否不可の拘束灯が紗英を赤く照らす。彼女が六と五を離さなければ、その時点で首輪が作動する。紗英は歯を食いしばり、二枚を禄へ渡した。
交換後、禄の手札は十、六、五で合計二十一。紗英はマイナス九だけ。
次に志津が紗英を指名し、四一枚とマイナス九を交換する。彼女は自分の合計を四に保ち、紗英を四と四の八へ戻した。
最後の紗英は禄を指名した。しかし禄の三枚すべてを要求しても、自分から何かを渡さなければ「交換」と呼べない。彼女の手札は八しかなく、二十一を崩す最善手は、四一枚と十を替えることだった。
禄は十を失い、四を得る。合計は十五。紗英は十四。志津は四。
終了ベル。
〈最大合計、十五。勝者、真鍋禄〉
紗英が震える声で言う。
「最初の一回で、勝負が決まっていたのね」
「枚数を指定しなかった主催者が、交換は対称だと思い込んでいたから」
禄は三枚になった手札を扇形に広げた。
「一対一なのは参加者であって、カードじゃない」
扉が開き、主催者の「公平な交換」という演出だけが、マイナス九より深く沈んだ。