三層で香る王冠
戴冠式の香水は、一刻も香りが続かなかった。
吹きかけた直後だけ柑橘が強く、王が大聖堂へ着く頃には消えている。長持ちさせようと樹脂香を増やせば、今度は入場時から重く、参列者が咳き込んだ。老舗香房は原料のせいにし、隣国からさらに高価な花油を買おうとしていた。
転生者アデラートは前世で香水を調香していた。彼は香料を一つ強くするのではなく、消える速さの違う香りを三層に分けた。
最初に立つ軽い柑橘、式の半ばに開く白花、最後まで残る木と樹脂。
「三種類を混ぜれば濁るだけだ」
香房長は言った。アデラートは王の左右の手首へ、従来品と試作品を一滴ずつ置いた。入場鐘の時、従来品は柑橘だけが鼻を刺し、試作品は同じ明るさでも角がない。
一刻後、謁見の予行が終わる。従来品の手首はほぼ無臭だった。試作品からは白花が立ち、王が腕を動かすたび近くにだけ届く。さらに昼鐘、軽い香りは退き、乾いた木の香りが衣へ残った。
香房長は、途中で別の香水を足したと疑った。侍従長が王の袖を封蝋していたため、誰も触れていない。三つの砂時計と三枚の試香紙にも、同じ順序で香りが残っていた。
王は大聖堂の長い回廊を歩いた。入口では清々しく、誓約の頃には花が開き、退出時には落ち着いた木香だけが王冠の周りに残る。どの瞬間も強すぎず、最前列の老司祭は一度も咳をしなかった。
式典官が記録した持続時間は四刻。従来品の五倍だった。必要量は一回一滴で、輸入花油の追加契約も不要になる。
参列した十二国の使節へ試香紙を渡すと、入口で好まれた柑橘、昼に褒められた白花、退出時に尋ねられた木香が、すべて同じ一本から出たと知って注文が殺到した。強さを増したのではなく、香る役目を時間で交代させただけ。その日のうちに予約は八百瓶へ達した。
香房長が買付書を隠そうとしたとき、王はその紙を抜き取り、アデラートの三層表へ王印を押した。香料庫の鍵も、同じ手で彼の前へ置く。
「戴冠香水五百瓶。王室調香師の席はあなたに与える」