三時十七分の錘

旧市庁舎の時計塔で、郷土史家の諸星が二百キロの鉄錘に胸を押さえられて死んでいた。錘は塔時計を動かす重りで、ワイヤを固定し直さなければ持ち上げられない。遺体は整備班の到着まで、歯車の影から動かせなかった。

塔にいたのは時計修復師の弓削、管理人の掛井、市長の津留田。諸星は塔の修復寄付金が選挙資金へ流れた証拠を持ち、午後三時半に記者へ会う予定だった。弓削は三時十七分の文字盤を見て退出したと言い、掛井は一階受付、津留田は議会中継に映っていた。弓削のアリバイだけが塔時計の表示に頼っている。

掛井は古いロープが切れた事故だと震えた。塔の外では市民が三時十七分で止まった針を見上げ、記者たちはその時刻を速報している。弓削は『私は三時十五分には階段を下りていた』と繰り返し、文字盤を自分の証人にした。私は時計を動かさず、三つの事実だけを比べた。

第一。外の針は三時十七分を指すが、内部の脱進機と打鐘数は三時五分で止まっている。弓削が首から下げる鍵で解除レバーを開き、針だけを十二分進めた状態で、彼のアリバイだけがその表示に頼っていた。

第二。錘のロープは摩耗で裂けず、整備足場の高さで一度に切られた平らな刃跡を持つ。自然落下ではない。

第三。諸星の血だまりは錘の落下線から四十センチ外に始まり、短い引き跡が重りの下へ続く。殺された体を置いてから錘を落とした順序である。

弓削は、時計ほど古い物なら勝手に狂うと反論した。だが掛井は、内部機構まで同時に狂うことはないと静かに答えた。

弓削は諸星を殴って落下線へ引き、整備足場でロープを切って錘を載せた。その後、外針だけを三時十七分へ進め、「その時刻に退出した」というアリバイを作ったのである。内部機構の三時五分が本当の停止時刻を、平らな切断面が故意の落下を、血の引き跡が死後の移動を示す。解除鍵を持ち、偽の文字盤だけを根拠にした弓削以外には成立しない。時計は十二分進められても、死体の順序までは進め替えられなかった。 自分で進めた針を証人に選んだことが、弓削の最大の誤算だった。