不安割

伏木一星は給料日の朝、借金アプリを開く。返済者の不安スコアが八十以上なら、利息が一時的に免除される。追い詰められた人を守る制度として導入され、恋人の莉子も半年間その恩恵を受けていた。

今日の莉子は九十三。利息はゼロだった。

二人は仕事帰り、駅前の小さな店でラーメンを食べた。莉子が金を使うことを怖がるので、一星が給料日だけ誘う。替え玉を半分ずつにし、無料のもやしを山ほど載せた。

「来月、昇給するかもしれない」

一星が言うと、莉子は久しぶりに声を上げて笑った。

「じゃあ、普通の部屋に引っ越せる?」

「窓のある部屋な」

笑いながら手を握る。莉子の端末が一度震えた。

《不安スコア七十九》

利息欄に小さな数字が現れた。

「一ポイントで?」

「また上げれば消えるよ」

莉子はそう言って、家賃、電気代、残りの元金を頭の中で数え始めた。八十二。利息は再びゼロになった。

二人は黙って麺をすすった。湯気が消えるまで、楽しい話題を避けた。

帰宅後、一星は昇給の内示を見せた。莉子は泣いて喜び、何度も「よかった」と言った。不安スコアは六十八まで下がった。

通知音が鳴った。

《経済的不安の改善を確認。保護措置を解除します》

《免除中利息百八十六万四千円を元金へ再算入しました》

「一時的って、過去の分も戻るの?」

画面の奥で、祝いの紙吹雪が一度だけ舞った。契約書には小さく書かれていた。不安が解消された者には返済能力が生じたとみなし、猶予分を復元する。

莉子の顔から笑いが消えた。七十五。八十一。

数字が八十を超えても、追加された利息は消えなかった。一度回復した者は、同じ債務について再保護されない。

一星は端末を伏せた。

「俺の給料で返せる」

莉子は彼の手を振り払った。

「安心させないで」

その声で九十に上がる。アプリは緑色になり、優しい文字を表示した。

《高い不安を維持できています。新規借入の優遇対象です》

店でもらった飴がテーブルに二つ転がっていた。莉子は一つを口へ入れたが、甘いと言わなかった。