九時三分の停止

【08:55】針生湊生、倉庫管理室へ入室。

【08:57】フォークリフト担当二十一名、社員証を返却。

【09:00】四辻隆志社長、朝礼開始。

「自動倉庫なんだから、人間はボタンを押すだけだ。文句を言う奴は今日で終わり」

【09:01】針生、退職届二十八通を提出。

四辻ロジスティクスでは、休憩を取れば出荷件数を減点され、故障対応は無給の待機扱いだった。四辻は倉庫を自分一人でも回せると豪語し、針生が作った復旧手順書を読んだこともない。

【09:03】自動搬送機、定期認証を要求。

四辻が管理画面へ触れる。赤い表示が出た。

〈有資格責任者の認証が必要です〉

資格を持つ三人は、すでに社員証を返していた。前日までに危険物と生鮮品は別倉庫へ移され、顧客の商品が壊れないよう手配されている。針生たちが止めたのは荷物ではなく、無資格者が動かす危険な運用だった。

「パスワードを教えろ」

「個人の資格証明です。会社へ譲渡できません」

【09:05】最大顧客の通販会社、入電。

大型画面に物流統括責任者が映る。

「本日以降の出荷は、針生さんたちの新会社へ切り替えます。隣県の倉庫で引き継ぎ済みです」

四辻は契約違反だと叫んだが、契約には責任者不在が一定時間続いた場合の緊急移管条項があった。今朝、自分で針生を解任したメールが発動条件になっていた。

【09:07】労働基準監督署、臨検開始。

夜間の待機を勤務から除外した記録と、事故報告を削除したサーバーが保全される。

【09:09】通販会社、遅延違約金を請求。

【09:10】銀行、売掛債権担保融資の停止を通知。

四辻は非常停止ボタンを叩いた。

「再起動すれば動く!」

針生は首を振る。

「止まっているのは機械ではありません。信用です」

【09:11】新会社の隣県倉庫、初回便出発。

【09:12】旧会社、支払不能見込みにより取締役が破産申立てを決議。

システム画面に〈処理終了〉と表示された瞬間、四辻が人間より信じていた自動倉庫だけが、正確に会社の終わりを記録した。