予告編のあとに座る人

二十一時五十分。小さな映画館で上映が終わり、片岡直澄は最後列の隣席に座る吉良央奈を見た。最終電車まで十分。央奈が監督した短編映画の初日だった。

二人は学生の頃から、必ず通路側とその隣を取った。遅れて来る直澄のため、央奈が通路側を空けておく。半券の裏には、上映後に互いの点数を書く。直澄は数字だけ、央奈は小さな文章。恋愛映画の日だけ、彼女の字は妙に長かった。暗い館内で腕が触れると、どちらも飲み物を取るふりをして離れ、次の場面まで戻らなかった。その間だけ、二人は同じ画面を別々に見た。

「次の作品、主演の人と海外で撮るんだって?」

「そう。半年くらい」

「週刊誌では婚約とも書かれてた」

「直澄も、そう見えた?」

「似合ってるよ。友達として祝う」

央奈は半券へ何も書かず、立ち上がった。

「エンドロールのあと、予告があるから見て」

「電車、間に合わないだろ」

「私は走る。直澄は、好きにして」

二十一時五十六分。央奈は通路を抜けた。直澄は迷いながら席に残った。スクリーンには協賛名が流れ、館内の客はほとんどいなくなる。

二十一時五十九分、十秒だけの映像が始まった。古い駅のベンチに、二席分の切符が置かれている。央奈の声が重なる。

〈ずっと隣を空けていた。来なかったのではなく、座っている人が気づかなかった〉

画面の切符は、二人が初めて映画祭へ行った日のものだった。裏に直澄の字で五点、央奈の字で〈あなたと見たから六点〉とある。直澄は当時、採点ミスだと思って笑った。

最後に題名が出る。

〈友達役を降りる日〉

続けて、主演俳優の指輪が映画の小道具であり、婚約報道は誤りだと短い字幕が出た。央奈が「そう見えた?」と訊いた意味が、そこで届いた。

時計は二十二時一分。駅へ走ったが、ホームから最終電車の尾灯が遠ざかっていた。央奈はその車内にいる。メッセージは未読のままだった。

直澄は改札前で、使われなかった隣席の半券を取り出した。点数を書かず、回収箱へ落とした。