二つの太陽
オルホン・ネレイの前には、同じ太陽旗が二本立っていた。
金糸の円、八本の光。違いは房だけだった。青房が八つなら汗王の旗、七つなら囮。敵の刺客はそれを知っている。
今夜、汗王は北門から脱出する。南の丘へ八房の旗を出し、敵騎兵を引きつける策だった。
だが南へ行く囮隊の兵は、七房だと思って集められていた。
「八つ目を結べ」と旗将が言った。
オルホンは青房を指に巻いた。
「兵には知らせないのですか」
「知れば顔に出る」
「死ぬ時もですか」
「顔が残る者だけが、死を気にする」
旗将はそう言い、北門へ去った。
オルホンは二本の旗を見比べた。片方の竿には汗王の手脂が黒く染み、もう片方は新しい。敵の刺客が本当に房だけを見るとは限らない。竿の傷、結び方、旗持ちの人数。偽物を本物にするには、房一つでは足りない。
彼は本物の竿から太陽旗を外し、囮の竿へ移した。古い竿には七房の布を結ぶ。これで南へ行くのは、布も竿も本物になった。
同僚が問うた。
「汗王に偽物を持たせるのか」
「生きて門を出れば、どちらが本物かは王が決める」
「南の俺たちは」
「敵に決めてもらう」
同僚はしばらく黙り、八つ目の房を指で弾いた。
「なら、せめて本物らしく死のう」
「本物の死に方などない。敵が見間違えれば、それで足りる」
丘へ出ると、月の下で金の太陽が輝いた。敵陣の騎兵がすぐ動く。八つの青房を数えたのだ。
矢が飛び、旗布に刺さる。オルホンは走らず、汗王の旗持ちらしい歩幅で丘を横切った。急げば囮と見抜かれる。背後の仲間も、事情を知らぬまま彼に合わせる。
敵の黒騎兵が南へ雪崩れた。北門の方角は静かだ。
オルホンの隣で同僚が倒れた。
「王は、俺たちの名を覚えるか」
「旗の房も数えない男だ。無理だろう」
オルホンは答え、太陽旗を高くした。敵はますます速くなる。
遠い北門の塔に、房の足りない太陽旗が上がった。汗王が門外へ出た合図だ。
旗将の角笛が鳴る。
「南隊、反転せよ」
オルホンは本物の太陽を敵へ向けたまま、槍を抜いた。