二十年前の会員証
新名鈴音のもとへ、歌手・水城ユノのファンクラブから更新特典が届いた。住所変更の反映が遅れ、なぜか旧登録先の会社へ送られてしまったのだ。総務から渡された封筒には、銀色の会員証が透けている。
鈴音は周囲の目を避け、すぐ鞄へ入れた。水城ユノはデビュー二十周年を迎えた実力派だが、家族からは「母世代の歌手」と言われる。会社では若者向けの流行を調べる仕事をしているため、古い歌を追い、地方の小ホールまで行く自分を知られたくなかった。
午後、企画本部長の雨宮多恵に呼ばれた。机の上には、鈴音が落とした銀の会員証がある。
「これ、廊下にありました」
鈴音は顔を伏せた。
「業務と関係ないものを持ち込んで、すみません」
多恵は引き出しから、角の丸くなった紙のカードを出した。番号は三桁。二十年前、水城ユノがまだ商店街のイベントで歌っていたころの初代会員証だ。
「私はあなたと同じ年のころ、ライブのために始発で仙台へ行きました」
意外すぎて、鈴音はカードと本部長の顔を見比べた。多恵は仕事では、若者の感覚を理解しようと努力する堅い上司に見えていた。
「今も行くんですか」
「年に一度。回数は減ったけれど、好きでなくなったわけではない」
多恵は新旧の会員証を机に並べた。デザインも素材も違う。ただ中央の小さな水滴マークだけが同じだった。
「趣味を続ける形は、年齢で一つに決まらない。たくさん行く時期も、離れる時期もある。だから先回りして、将来の自分に恥じなくていい」
鈴音は長い説教より、擦れたカードのほうを信じた。二十年、鞄や財布を移りながら残った跡があった。
周年公演の日、鈴音は有給申請の備考へ初めて〈水城ユノ二十周年公演〉と書いた。書く必要はなかったが、隠す必要もなかった。
承認済みの印を押した多恵は、何も誘わない。席も行き方も違うのだろう。
鈴音は新しい銀の会員証を、封筒の奥ではなく透明ケースへ入れた。初代と同じ水滴が、社員証の横で静かに光った。