二杯目は水

長谷部雫は、勧められた飲み物を断れない。

会社の食事会では、グラスが半分になると誰かが次を頼む。

先月は三杯飲み、翌朝の会議で文字が滲んだ。帰宅後に気分が悪くなっても、写真の中では楽しそうに笑えていた。その笑顔を見て、無理をした証拠ではなく、馴染めた証拠だと思うことにした。「同じのでいいよね」と聞かれれば頷いた。酔いやすいと言うと場を冷ます気がして、翌朝の頭痛まで愛想の一部にしていた。

歓迎会の夜、一杯目のハイボールを飲み終える前に、先輩が店員へ手を上げた。

「雫ちゃんも同じの、もう一つ」

いつものように笑って頷きかける。断るほど具合が悪いわけではない。飲めない人でもない。だからこそ、嫌だというだけでは足りない気がした。

グラスの氷が崩れ、薄い音を立てた。雫は今日の昼から胃が重かったことを思い出した。理由として言えば、心配され、薬の話になり、結局もっと説明することになる。

「私は水にします」

先輩の注文へ言葉を重ねた。

店員が確認し、先輩は「あ、了解」とメニューへ目を戻した。向かいでは別の会話が続いている。雫が何を飲むかは、場全体を左右するほど重要ではなかった。

運ばれてきた水は、細いグラスに入っていた。

断った直後だけ、周囲の笑い声が自分を避けて進むように聞こえた。雫はその感じを打ち消そうとせず、膝の上で握っていた手を開いた。誰も彼女の選択を説明してはくれないし、説明する必要もなかった。乾杯をやり直すこともなく、雫は一口飲んだ。酒より冷たさがはっきり分かる。

隣の同僚が「次、ポテト頼む?」と聞いた。雫は食べたければ頼む、とだけ答えた。水を選んだ代わりに会話を盛り上げようとも、皿を取り分けようともしなかった。

食事会が終わっても、誰も二杯目のことを覚えていないだろう。雫だけが、空になった水のグラスを見た。

帰りの階段で足元はまっすぐだった。酔っていないことを誇るのではなく、今夜の自分が欲しかったものを、勧められたものより先に選べた。その一杯分だけ、雫は静かに歩いた。