五つの偽証

異端裁判で、リクサは証言台へ片手を置いた。

掌の下には悪魔バルザクの目が埋め込まれている。契約によって、誰かの嘘を指摘すれば、その嘘は黒い糸として全員に見える。ただし嘘一つにつき、リクサは感覚を一つ失う。

被告は薬草師の少年。五人の証人が、彼を夜の墓地で悪魔と話していたと証言した。

第一の証人が言う。

「私は月明かりで顔を見た」

リクサは掌を向けた。

「その夜は新月だった」

男の口から黒い糸が伸び、裁判長の袖へつながる。同時に、リクサの視界が消えた。

二人目。

「少年の声を聞いた」

「あなたは十年前から耳が聞こえない」

二本目の糸。リクサ自身の聴覚も奪われ、法廷は無音になった。

三人目は墓地の腐臭を語った。

「冬の墓地に、埋葬はなかった」

嗅覚が消える。

四人目は、少年が毒草を舐めていたと言った。

「その草は触れただけで舌が腫れる。あなたの舌には傷がない」

味覚が消えた。

黒い糸はすべて裁判長ユルゲンへ集まっていく。少年の父が残した土地を没収するため、証言を買ったのだ。

残る五人目は、少年の姉だった。震えながら言う。

「弟は、悪魔の印を持っています」

それだけは真実に見えた。少年の腕には確かに黒い痣がある。

だがリクサは、盲目のまま少年の呼吸を数えた。痣を見せられたときだけ、姉の息が止まっていた。

「その印は、今朝あなたが墨で描いた」

五本目の糸が姉の口から出て、やはり裁判長へ結ばれた。

代価に触覚が消えた。

リクサは立っているのか倒れているのか分からなくなった。舌も耳も目も、世界との境を失う。掌の悪魔の目だけが、五本の糸を見ていた。

証人たちは買収を認め、ユルゲンは拘束された。少年の鎖が外される。

誰かがリクサを抱き起こし、掌へ指で文字を書いた。彼女には指の感触がない。けれど悪魔の目がそれを読む。

《助かった。ありがとう》

リクサは笑おうとした。自分の唇が動いたかどうかも分からない。

バルザクの目が掌から肘へ移り、そこで瞬いた。五つの感覚を食べた悪魔だけが、彼女の身体を内側から感じ始めていた。

裁判所を出るとき、救われた少年が彼女の名を呼んだ。

リクサには音が届かず、肩へ触れられたことも分からない。

真実を見せた証人は、勝利の瞬間から、自分が世界に存在している証拠を一つも受け取れなくなった。