五本目の鉛筆
姪の筆箱には、芯の丸い鉛筆が五本入っていた。
余命を告げられた日の夜、大嶋瑛子はその五本を食卓へ並べた。
姉の家へ帰ると、小学二年生の姪は風呂に入っていた。食卓には国語の教科書と、透明な筆箱が開いたまま置かれている。連絡帳には「鉛筆五本、赤鉛筆一本」と母親向けの字で書かれていた。鉛筆は全部、芯が丸い。朝、姪が「明日漢字テスト」と言い、瑛子は病院から戻ったら削ると約束した。
姉は台所で味噌汁を温めていた。診察結果を聞きたそうに何度もこちらを見るが、姪のいる前では尋ねない。瑛子も、今は筆箱だけを見た。
電動鉛筆削りは壊れている。小さな手回し式を棚から出すと、削りかすの箱が満杯だった。まず新聞紙へ空ける。木の薄い帯が重なり、先の黒い粉が指についた。
一本目は赤い花柄。短い歯型の隣に、姪が書いた丸が三つある。削ると芯が途中で折れた。もう一度差し込み、ゆっくり回す。姪は力いっぱい押し込むので、木の側面に歯形のような傷がついている。
二本目は名前が半分消えていた。瑛子は油性ペンを探しかけ、やめる。今日の用事は削ることだけだ。名前は姪が自分で書けばいい。
三本目、四本目。回すたび、木の香りが食卓へ広がった。病院の診察室にはなかった匂いだった。医師は一年は難しいと言ったが、明日の漢字テストは、何も難しくない顔で来る。
風呂場から、姪が「あした『春』出るかな」と叫んだ。
「出るんじゃない」
「『曜』は?」
「それも出る」
「どっちがむずかしい?」
瑛子は四本目の先を見た。「曜」と答えると、姪は湯船の中で何かを唱え始めた。
五本目だけ、短かった。削ればさらに短くなり、持ちにくいかもしれない。新しい鉛筆へ替えようと筆箱の予備を探したが、姪はこの水色を気に入っている。瑛子は削り器の蓋を少し緩め、芯が細くなりすぎないところで止めた。
風呂から上がった姪が、濡れた髪のまま食卓へ来る。瑛子は触らせず、五本を掌の上へ並べた。
最後の水色の鉛筆を筆箱へ入れる。五つの黒い先が、同じ方向へそろった。