亡き師匠のチャンネルが目を覚ました
《このチャンネル、三年前に主が亡くなってる》
《誰が勝手に配信してるんだ》
《梶浦未央が後継者を名乗るための乗っ取り?》
納骨堂の隅で眠っていた小型ドローンが、命日の予約時刻を迎えて起動した。古い認証のまま、亡き調教師のチャンネルに生配信が始まる。
映像の中央にいたのは、墓守の梶浦未央だった。
彼女の周囲では《葬列機兵》三百体が目を覚まし、参列者を石壁へ追い詰めている。師匠の死と同時に命令権を失った機兵は、近づく者すべてを侵入者と判定していた。
未央は三年間、管理鍵の継承審査に落ち続けた。戦闘力も魔力量も基準以下で、「餌やりを手伝っていただけの墓守」と記録されている。けれど古い配信を見返せば、師匠が機兵を褒める前、いつも画面の外から同じ二音が聞こえていた。
未央は武器を持たず、棺に供える白い花を一本だけ手にしている。
《管理鍵は師匠と一緒に焼失》
《音声命令も全機体から削除済み》
《三百体同時停止なんて管理局でも無理だ》
未央は花を胸元へ置き、機兵たちを見渡した。
先頭の槍が彼女の喉へ届く寸前、口笛を一度だけ吹いた。
短い、上がって下がる二音。
槍が止まった。
三百体の機兵が一斉に膝をつき、頭を垂れる。床を埋めた金属音は、巨大な鐘を一度鳴らしたようだった。参列者へ向いていた赤い目が青へ戻り、道が開く。
《管理信号じゃない。外部入力ログ、ただの口笛》
《機兵の学習層に同じ波形が三年前から残ってる》
《師匠が毎日使ってた集合合図だ》
《未央の口笛だけ、信頼個体として全機が記憶していた!》
未央は一番小さな機兵の頭へ花を挿した。
「先生。みんな、忘れていませんでした」
《乗っ取りじゃない》
《鍵を継いだんじゃなく、呼び方を継いだ》
《三百体が認めたなら誰より正式な後継者だ》
参列者の一人が、未央は墓守にすぎないと入口で言った人物だった。三百体が作った道を通る前に、彼は深く頭を下げる。
《全機の承認署名、同一時刻に更新》
《外部からの管理権限注入なし》
未央は謝罪を聞くより、機兵の関節へ溜まった三年分の埃を払った。師匠なら最初にそうしたはずだった。
配信画面の所有者欄が、長い審査待ちを終えて更新される。
【故・調教師アルノ】の下に、
【共同管理者・梶浦未央/機兵群による承認済み】
新しい名前が灯った瞬間、三百体はもう一度、静かに頭を下げた。