会談室の七つ目の椅子

国境会談で、敵国の使節は交渉が始まる前に席を立った。

こちらの代表パンセルが「譲歩は穀物関税まで。鉱山権は絶対に渡さない」と控室で確認した直後、会談室へ入った敵使節が笑ったのだ。

「では鉱山権を求めれば、穀物は無条件で得られるわけですね」

まだ一言も交渉していない。代表団は青ざめた。

壁、扉、窓は調べられたが、盗聴道具はない。七つ並んだ椅子のうち、誰も座らない予備椅子だけが、かすかに振動していた。隣室の床下へ音を伝える古い共鳴木で作られていたのだ。

昨日までそれが働かなかったのは、結界師キナトが、家具ごとに振動を閉じていたからだった。人の出入りを妨げず、声だけでなく机や床を伝う音まで一室へ留める術。パンセルは「耳を塞ぐだけの臆病な補佐」と彼を代表団から追放した。

最初の会談は、要求を口にする前から敗北した。

その頃キナトは、職人組合の裁定室にいた。組合長ベネッタが、隣室に待たせた二つの工房主を順に呼ぶ。

「互いの証言を聞かせず、同じ質問へ答えてもらえた。床を踏む音さえ漏れていない」

「争いを裁く場では、秘密を守ることが公平の一部です」

「王侯の機密だけが価値あるわけじゃない。小さな工房の技法も、職人の名誉も守れる」

その日のうちに、十二組合がキナトを共同の守秘官として任命した。

夕暮れ、敗れた代表団の馬車が工房街へ入った。パンセルは扉を閉めるなり言う。

「次の会談まで三日だ。戻れば副使節の肩書を与える。今度こそ、お前の結界を正式に評価しよう」

キナトは十二の組合印が並ぶ任命状を畳んだ。

パンセルの「正式に評価する」という言葉は、昨日まで評価していなかった事実を、ようやく認めたにすぎない。しかも三日後には、また彼一人へ国家の失策を背負わせるつもりだ。十二組合の任命状には、各工房が守るべき規則も並んでいた。結界へ頼って大声で秘密を話さないこと、点検を妨げないこと、守秘官にも知る必要のない情報は渡さないこと。守られる側も責任を負う契約だった。キナトは、その対等な文字列を一つずつ読み直した。

「代表団との契約は、昨日で終了しています」