位置情報は一時間

実莉が実家へ向かう電車に乗ると、母から位置情報共有の招待が届いた。

〈駅まで迎えに行くから、ずっと共有して〉

以前なら迷わず許可していた。母は電車の遅れも、途中下車も、到着前のコンビニも画面で知り、そのたび〈今どこ〉〈なぜ止まったの〉と送ってきた。

実莉は共有時間の選択肢を開いた。「一時間」「一日の終わりまで」「無期限」。無期限ではなく、一時間を選ぶ。

すぐに母から〈一時間じゃ切れるでしょう〉と来た。

〈到着まで四十五分だから十分〉

列車が発車する。母のチャットには、実莉が通過する駅ごとに短い報告が届いた。

〈今、川を渡ったね〉

〈次で快速待ち?〉

実莉は返信せず、窓の外を見た。位置を見せるだけで会話まで差し出す必要はない。

途中、電車が五分止まった。母から電話が来たが、実莉は切った。

〈車内放送では安全確認。着いたら連絡する〉

〈心配だから見てるの〉

〈心配してもいい。でも移動中ずっと実況はしない〉

送ったころ、共有の残り時間は十二分だった。

駅へ着くと、母の車がロータリーに見えた。実莉は改札前で位置情報を停止した。母から〈切れた〉と来る。

〈着いたから終わり〉

車へ向かわず、実莉は一度駅のロッカーへ寄った。実家に置いたままだった合鍵を、今日返すため封筒に入れてある。

〈これからは到着時刻を知らせる。現在地の常時共有はしない〉

母は車の中からこちらを見ていた。チャットにはしばらく返事がなく、やがて〈西口にいる〉とだけ来た。

地図上の自分は青い丸で、母の画面へ向けて点滅している。以前、途中で喫茶店へ寄っただけで〈誰といるの〉と電話が来た。実莉は安全のために共有したはずなのに、行動の許可を取る道具へ変わっていた。今回は共有終了時刻が数字で減っていく。その表示を見ていると、一本の紐に初めから切れる場所を作ったようで、呼吸が少し楽になった。

実莉は〈今行く〉と返した。どこを通るかまでは送らない。改札から西口までの短い道を、自分の足取りだけで歩いた。